米・Tennessee Valley Healthcare System VA Medical CenterのLee Wheless氏らは、米国の2つの患者コホートの電子健康記録(EHR)を後ろ向きに解析した結果、「ニコチンアミド使用と主要心血管イベント(MACE)リスク上昇には関連が認められなかった」とJAMA Dermatol2025年2月26日オンライン版)に報告した。

皮膚がんの予防に広く使用されている

 水溶性の活性型ビタミンB3の一種であるニコチンアミドは、皮膚がんに対する化学予防薬として広く使用されているが、近年、MACEリスクとの関連で、安全性に関する懸念が浮上している。ニコチンアミドとその上流分子であるナイアシンは、アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒド脱炭酸酵素(ACMSD)により代謝されるが、その代謝物であるN1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド(2PY)とN1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド(4PY)の過剰は血管細胞接着分子の増加をもたらし、これがMACEリスクの上昇につながるとの報告がある(J Clin Lab Anal 2022; 36: e24685)。しかし、この研究はリアルワールドの患者データを検証したものではない。

 今回、Wheless氏らは、Vanderbilt Univerity Medical Center(VUMC)コホート、Million Veteran Program (MVP)コホートのEHRデータを集計し、ニコチンアミド曝露群と非曝露群のMACEリスクを検証した。

MACE既往の有無を問わずニコチンアミドによるリスク上昇なし

 VUMCコホートのEHR(1989年1月~2024年2月の記録、男女比ほぼ同じ)から、ニコチンアミドの推奨がある患者の診療記録(カルテ)を調べ、実際に処方された患者を同定(曝露群:1,228例、平均年齢57.4歳)。一方、推奨されているものの実際には服用しなかった患者を非曝露群(253例、同58.4歳)とした。

 単変量解析の結果、ニコチンアミド曝露とMACE発症率との有意な関連は認められなかった〔ハザード比(HR)0.75、95%CI 0.46~1.24〕が、MACEの既往歴は後のMACE発症率の上昇と強い関連を認めた(同10.37、6.77~15.86)。

 多変量を調整し、MACE既往歴で層別化したところ、MACE既往歴なし群ではニコチンアミド曝露とMACE発症リスクに有意な関連を認めなかった〔調整後の原因別ハザード比(aHR)2.02、95%CI 0.81~5.05〕が、MACE既往歴あり群では、ニコチンアミド曝露によるMACE発症リスクの有意な低下を認めた(同0.46、0.22~0.95)。

 MVPコホート(1999年10月~2024年2月の記録、男性97%)については、ニコチンアミド500mg、1日2回の処方記録の有無で曝露群(4,063例、平均年齢67.87歳)、非曝露群(7,564例、同67.89歳)を決定。ニコチンアミド曝露とMACE発症との間には、MACE既往歴の有無を問わず有意な関連は示されなかった(既往歴なし群の原因別aHR 1.07、95%CI 0.75~1.17、既往歴あり群の原因別aHR 1.04、0.53~2.06)。

注意すべきはベースラインでのリスク

 以上の結果についてWheless氏らは、①サンプルサイズの小ささ(VUMCコホート)、②両コホートの年齢差や男女構成の差、③曝露群の患者が本当にニコチンアミドを服用していたかは不明ーなど「患者背景や構成の異なる2つのコホートの解析という限界はあるものの、MACEリスク上昇と関連するのは既往歴などベースラインのリスクであり、ニコチンアミド曝露によるMACEリスクの上昇は観察されなかった」と結論している。

(医学ライター・木本 治)