患者は8年以上も効果のない治療を受けさせられ、国民は無駄な社会保険料を払わされ続けてきた―。昨年(2024年)、再生医療早期承認制度によって「仮承認」を受けていた2つの再生医療等製品の「正式承認」が否決されたことを受け、名戸ヶ谷病院(千葉県)整形外科顧問の川口浩氏が日本の再生医療の実態を「暗雲が立ち込めてきた」と形容し、世界に告発した(Stem Cells Dev 2025年3月6日オンライン版)。日本の再生医療の在り方をめぐっては、Nature誌が「このままでは効果のない製品が日本国内に溢れる」と警告してきたが、同氏はそれが的中したことになると主張している(関連記事「化けの皮が剝がれた日本の再生医療」)。

4製品が仮承認により臨床の場に登場

 日本の再生医療は、第二次安倍晋三政権が看板としたアベノミクスの経済成長戦略の1つに位置付けられ、国を挙げて推進することになった。その中核となる政策が再生医療早期承認制度(再生医療等製品の条件及び期限付き承認制度)である。この制度では、臨床試験で有効性が推定された再生医療等製品に対し、条件と期限を設けた上で「仮承認」を与え、製造販売を許可する。「本承認」は上市後の臨床データに基づき再審査した上で決定される。

 これまでに同制度によって、ハートシート(重症心不全、テルモ)、コラテジェン(慢性動脈閉塞症、アンジェス)、ステミラック(脊髄損傷、ニプロ)、デリタクト(悪性神経膠腫、第一三共)の4製品が仮承認され、臨床の場に登場している。なお、その中に胚性幹(iPS)細胞関連の製品はない。

Natureに酷評されたハートシート、ステミラック

 川口氏によると、再生医療早期承認制度は、➀対照群のない数例の臨床試験データで仮承認が与えられる、➁仮承認の間も公的医療保険が適用される―点で大いに問題だという。➁については、「本来企業が負担すべき臨床試験の経費を患者と国民に押し付けている」と主張している。

 日本の再生医療早期承認制度を酷評してきたのがNatureで、2015年にテルモのハートシートが仮承認された際は「将来、仮承認された製品の有効性が否定され、効果のない製品が日本国内に溢れる」と警告(Nature 2015; 528: 163-164)。2019年に仮承認されたニプロのステミラックに対しては、仮承認に至る審査の科学性を「premature and unfair(未熟で不公正)」と痛烈に批判した(Nature 2019; 565: 544-545535-536、関連記事「予見された日本の再生医療の"最悪の事態"」)

 ハートシート、コラテジェンの本承認は昨年6月と7月に相次いで否決された。Natureの主張を一貫して支持してきた川口氏は、この事態をNatureの警告が的中したものだと指摘。「患者は8年以上も効果のない治療を受けさせられ、国民は無駄な社会保険料を払わされ続けてきた」と批判する。特に、ハートシートについては、有効性が認められなかっただけでなく、心臓関連死のハザード比が1.9と安全性にも問題があると指摘している。

日本の再生医療等製品が世界に受け入れられるために

 川口氏は再生医療や遺伝子治療の分野において、規制慣行の国際的な調和の取り組みが徐々に進みつつあることに言及。日本もこうした国際調和の流れに乗ることで、承認制度の信頼性を高め、日本の再生医療等製品の世界的な受け入れを促進することができると提言する。

 具体的には、「現行の再生医療早期承認制度を改め、十分な症例数による対照群を設けた臨床試験による確固としたエビデンスに基づいて、仮承認を行うべき。公的医療保険は本承認後に適用すべき」と述べている。財政負担の転嫁、エビデンスの欠如、時期尚早な商業化など根本的な問題に取り組む必要があるという。

平田直樹