スウェーデン・Karolinska InstitutetのChristian Basile氏らは、同国の心不全レジストリSwedish HF registry(SwedeHF)のデータを後ろ向きに解析した結果、「左室駆出率(LVEF)が改善した心不全(HF with improved ejection fraction ; HFimpEF)症例における診療ガイドライン(GL)推奨の心不全治療(guideline-directed medical therapy;以下、GL推奨治療)の中止率は低く、中止例では心血管死亡や心不全入院リスクが高かった」とCirculation2025年3月17日オンライン版)に報告した。
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HFimpEFを対象としたRCTは少ない

 GL推奨治療は、LVEFが低下した心不全(HFrEF)患者のLVEFを改善し、全死亡率や心不全入院率を低下させることが報告されているが、HFimpEFは比較的新しい心不全の分類であり、ランダム化比較試験(RCT)による検討は不十分だ。これまでHFimpEF症例を含む心不全患者を正式に登録したRCTはダパグリフロジンのDELIVER試験のみだが、TRED-HF試験やSTOP-CRT試験では、非虚血性HFimpEF患者における薬物治療中止の影響が検討された。欧州心臓病学会(ESC)や米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)はTRED-HFの結果に基づき、2021~22年のGLで、HFimpEF患者に対する治療継続を推奨した。しかし、これらの試験の結果も一貫したものでなく、サンプルサイズも小さい。

 HFimpEFは比較的低リスクの患者群であり、GL推奨治療継続の安全性と有効性を評価するには、大規模なRCTが必要だが、製薬企業からの資金提供の可能性は低く、倫理的観点からもこの患者群を対象とする大規模RCTが実施される見込みは低い

RASi/ARNi、MRA中止例では心血管死亡/心不全入院リスク上昇

 Basile氏らは今回、2000年6月~23年12月にSwedeHFに登録された、登録時のLVEFが40%未満で、その後(1カ月以上後)LVEF 40%以上となった患者をHFimpEFとして抽出。GL推奨薬〔レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RASi)、アンジオテンシン受容体・ネプライシン阻害薬(ARNi)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)〕の中止率および、中止と心血管死亡、心不全入院との関連を検討した。

 対象は8,728例〔年齢中央値70歳(四分位範囲61~78歳)、女性2,611例(29.9%)〕で、LVEF 40%未満のときは、96%がRASi/ARNiを、94%がβ遮断薬を、46%がMRAを服用していた。HFimpEFとして登録された時点での各薬剤の中止率は、それぞれ4.4%、3.3%、17.2%だった。

 中止との関連が認められた予測因子は、①他の心不全治療薬の使用が少ない、②2回目登録時のLVEFが高い、③LVEFを評価の間隔が長いーことだった。

 Overlap weightingで重み付けしたCox回帰分析の結果、RASi/ARNi、MRAの中止はそれぞれ、1年時点の心血管死亡/心不全入院リスクの38%、36%の上昇と関連していたが、β遮断薬に関してはLVEFの改善が40~49%の患者でのみ中止とリスク上昇との関連が認められた。

β遮断薬についてはRCTで検証すべき

 以上を踏まえ、Basile氏らは「HFimpEF患者のGL推奨治療中止率は極めて低いことが実臨床データから確認された。RASi/ARNiとMRAの中止は、死亡率/入院率の上昇との関連が認められたが、β遮断薬継続による死亡率/入院率への効果は、LVEF 49%までの患者においてであり、50%以上の患者ではβ遮断薬を中止しても変わりなかった」と結論。「今回の結果は仮説生成的なものであり、HFimpEF患者におけるβ遮断薬中止の影響についてはRCTでの検証が求められる」と付言している。

(医学ライター・木本 治)