医学生のフィールド
市民への医療教育、小中学の訪問授業で実践
~横浜市立大学医学部YDC~
YDC(Yokohama Dream Catchers)は、横浜市立大学医学部の医学科と看護科の学生が、金沢区の小中学校を中心に訪問授業を実施し、子どもたちに医療の仕組みや病気の知識を伝え、より多くの市民に医療や健康への関心を高めてもらうことを目指す。2回目の紹介となる今回は、2018年に代表を務めた張田佳代さんに話を聞いた。
前代表の張田さん
◇「広告医学」の武部先生が創設
――創設の経緯を教えてください。
広告的手法を用いて医療コミュニケーションを行う「広告医学(AD-MED)」の概念をつくった武部貴則先生(横浜市大教授・東京医科歯科大教授)によって07年に創設されました。
部員は医学科と看護学科合わせて45人です。横浜市大の「学生が取り組む地域貢献活動支援事業」に18年までに8回採択されています。
――「広告医学」とは興味深いですね。
一般の人に対して医療や健康のための行動を促すに当たって、理性ではなく、デザインやコピーライティングなどの広告的視点を取り入れて感性に訴えることで、自然に誘導するというものです。
武部先生が行ったプロジェクトとしては、例えば、横浜市大の二つのキャンパスの最寄り駅、シーサイドライン金沢八景駅と市大医学部駅に設置された「上りたくなる階段(健康階段)」があります。
階段にユニークなデザインを施すことで、エスカレーターを使わず、階段を上ってみたくなる。これによって、運動不足の解消につながるという狙いで、実験的に行った取り組みです。
医学生の授業に子供たちは興味津々
腹囲が大きくなると色が変わって知らせる「アラートパンツ」もメタボの啓蒙として商品化されました。
デザインは、人々のモチベーションに働き掛けて、自然に行動を変える力があります。訪問授業もこの概念を応用して行っています。
◇家庭でも考えてもらうために
――訪問授業では、どのようなことを。
授業のテーマとしては「医療機関の使い分け」「私たちはなぜ医師、看護師を目指したのか」とか、夏には熱中症予防のための「夏に増える危ない症状」などです。授業のためのプレゼン資料は全て学生が作ります。
「医療機関の使い分け」は、大人であっても意外と知られていません。体の調子が悪いとき、どういう場合に救急車を呼ぶのか。救急車、大病院、クリニック、夜間休日診療所の特徴を説明し、症状によって、どの医療機関を受診するべきか。また、どのようにすれば予防できたか。
そういうことをグループごとで話し合い、iPadで分かりやすく説明します。子どもたちが家に帰って、家族に伝えることで、家庭でも考える時間が生まれます。
子どもたち、つまり未来の大人に伝えることで、親世代も間接的に教育することができる。これによって、横浜市民全体が医療問題への関心を高めていくことにつながるのではないかと考えています。
授業ではiPadを使ってクイズを出題
「飲酒・喫煙・違法薬物はなぜ危険なのか」というテーマの授業も行っています。
現在の教育では、飲酒、喫煙、違法薬物の危険性に関して「絶対にダメ」と押し付ける内容の授業が主流となっていますが、それでは依存症患者に対する偏見を助長し、援助を求めている子どもたちがいても見逃してしまう危険性があります。
そのため、私たちの活動では「依存症とは何か」「どういう人が依存症のリスクが高いのか」という根本的なことを理解してもらった上で、飲酒、喫煙、違法薬物の危険性について教えるようにしています。
- 1
- 2
(2019/03/08 06:00)