匂いを感じにくい嗅覚障害
認知症などの前兆の可能性も
近年、高齢化に伴い、匂いを感じる機能が低下する「嗅覚障害」の患者数が増加傾向にある。鼻の病気や風邪が直接の原因になる場合が多いが、認知症の前兆として表れることもあり、決して侮れない。「匂いがしない」と感じたら、耳鼻咽喉科を早めに受診してほしい。
▽蓄膿症、風邪などが原因に
鼻の奥には、匂いを感じ取る細胞が密集した「嗅上皮」という粘膜がある。空気中の匂いの分子は鼻の穴から入って、嗅上皮に到達する。その刺激が電気信号に変換され、「嗅神経」を通って脳に伝わり、匂いとして感じられる。この経路のどこかに異常が生じると、匂いを感じにくくなる嗅覚障害になる。食べ物の匂いが分からず、腐ったものを食べてしまう、ガス漏れや煙に気付かないなど、健康や命に関わる危険性もある。
嗅覚障害の危険因子
東京大学医学部付属病院(東京都文京区)耳鼻咽喉科の菊田周特任講師によると、嗅覚障害は人口の1~3%に見られる。嗅覚は60歳ころから顕著に低下し、加齢とともに衰えていく。男性より女性に多く、風邪が原因となる嗅覚障害は中高年女性が大半を占める。また、喫煙者の約2割が嗅覚障害とされ、糖尿病や肥満の人にも多いという。
菊田特任講師によると、加齢以外の原因で最も多いのが慢性副鼻腔(びくう)炎。蓄膿(ちくのう)症ともいわれ、30~40%を占める。次いで、風邪が20%前後、頭部外傷が10%程度で、これらで全体の6割以上になる。「患者数は少ないものの、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症などの前兆として嗅覚障害が表れる場合もあります」と菊田特任講師。
▽手術が有効な例も
治療には、ステロイド薬、抗生物質、漢方薬などが用いられるが、菊田特任講師は「これらの薬物治療にほとんど効果のない人も多数います。原因が慢性副鼻腔炎の場合は、鼻から内視鏡を挿入し、匂いの分子が嗅上皮に届くように手術(内視鏡的副鼻腔手術)を行うことで、嗅覚が元通りに回復する人もいます」と説明する。
さらに、「海外の報告によると、花や果実などの匂いをかいで嗅覚を刺激するトレーニングは風邪による嗅覚障害を改善する可能性があるといわれています。日本ではまだ検討段階です」と話す。菊田特任講師らが研究を進めている糖尿病治療薬のインスリンを鼻に吹き付ける治療法(点鼻薬)は、動物実験で嗅覚機能を回復させるという結果が得られており、今後の臨床応用が期待されている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/06/23 18:00)