医学トップの視座

平和を希求し、創造性を育む
与えられた才能を人々のために-広島大学医学部

 ◇学生の自主性を重視

 国際認証に向けた教育改革を通して、カリキュラム作成への学生の参加を進めてきた。

 「例えば、試験の前日の月曜日は授業をなしにして、火曜日の午前中に試験をする。90分授業の場合、座学は45分にし、その後5分間の休憩をはさんで演習を行うなど、積極的に学生の意見を聞きながらカリキュラムの改革を行ってきました」

 課外活動を推奨し、クラブ活動には父兄会からの経済的支援もある。新入生のオリエンテーション・キャンプは1年前から学生たちが中心になって準備を進める大掛かりな取り組みだ。

広島大学医学部

◇人対人の生きたやりとり

 新入生のオリエンテーション・キャンプは、「先輩と後輩が統制のとれた大きな組織で取り組みます。倫理の大切さや医療人としての精神は座学だけでは身につきません。結局、人対人の生きたやりとりの中でしか人は育たないと思うんです」

 学生10人に対して1人の教授がチューターとして配属されるなど、6年間の学生生活を通したきめ細かなサポートがある点は、国立大学では珍しい。

 「毎年公開される成績は、チューターと面談しなければ、見られない仕組みになっていて、入学から卒業までの学生生活に関するあらゆる問題に対応しています」

 ◇ごまかしが効かない

 秀医学部長は、もともと理科系が得意で研究志向が強い学生だったという。高校時代に、研究室の中で研究するよりも、実社会との関わりを持ちたいと考えるようになり、医師への道を志した。

 「医学という仕事は研究者でもあり、実社会との関わりがとても大きい。人の心と体のつながりという点でも魅力を感じました」

 専門領域に皮膚科を選んだのは、「当時の教授がとても意欲的かつ学術的で、皮膚科の将来性を感じたから」だが、実際に足を踏み入れてみて、皮膚科の奥深さに魅せられることになる。

 「皮膚の病気は、検査の数字をもとに判断するというより、見たり触ったりして診断するアナログの世界。しかし、その中に多くの法則があり、論理力と感性の両方が必要です。そして、皮膚の症状は目に見えていますから、患者さんに対してごまかしが効かない。でも、良くなった時は直接的に患者さんと喜びを共有することができます」

インタビューに応える秀道広医学部長

 ◇アジアで初めて

 じんましんとアトピー性皮膚炎の研究の第一人者として知られる。2013年にはアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる汗アレルギーの原因物質を突き止め、ヤフーニュースのトップニュースになったこともある。じんましんに関しても、ロンドン留学中に自己免疫という体内のアレルギー反応によって起こる仕組みを発見した。

 「まだ問題のすべてが解決したわけではありませんが、10年20年先には、昔はいい治療がなかったんだと語られる時代がきっと来ると思います。できれば、そうした過程の中に大きく関わりたい」と意欲的に話す。

 こうした取り組みの結果、広島大学付属病院はアレルギー疾患治療拠点病院に指定された。中でも皮膚科は、3年前にアジアで初めて国際組織による国際じんましんセンターとして認証を受けた。

 ◇「おにぎりよりも柿の種」

 医学部長室には、秀氏が目指す目標が掲げられている。その中に「おにぎりよりも柿の種」という言葉がある。昔話の猿蟹合戦にちなみ、今すぐ食べられるおにぎりよりも、時間をかけて豊かな柿の実の収穫を目指してほしいという願いが込められている。「医学は今なお未完成の学問ですから、既に開発された知識や技能を実践するだけでなく、未解決の課題を切り開く人材であってほしい」

 グローバル化については、経済的な効率性が強調されていることに危機感を示す。

 「日本の医師は国際的にみると正直待遇が悪いと思います。でも、自分だけが高い収入を得るよりも、皆が物心ともに豊かであることを目指したい。医学部に入学する人には、与えられた才能を自分のためだけではなく、より多くの人を救うことを喜びとするような人になってもらいたい」と期待する。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)

【広島大学医学部 沿革】
1945年 広島県立医学専門学校を開校。
      空襲激化のため疎開、翌日に原子爆弾で校舎及び付属医院が全焼する
    48年 広島県立医科大学が開学、同付属医院となる
    52年 広島医科大学(新制)が開学、同付属病院となる
  53年 広島大学医学部設置
  57年 医学科に放射線医学講座を造設
  58年 医学部付属原子放射能基礎医学研究施設設置
  61年 原爆放射能医学研究所を設置
2004年 国立大学法人広島大学となる
  12年 医学部付属医学教育センターを設置
  13年 医学部医学科の学生定員が1学年120人となる

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