研究・論文

紫外線照射で動脈硬化を抑制
マウスの実験で確認

 日本人のおよそ4人に1人が、動脈硬化によって引き起こされる心筋梗塞や脳卒中などの病気で亡くなっている。動脈硬化の予防や治療が重要視される中、皮膚への紫外線照射が動脈硬化の進行を抑制するという研究が注目されている。

 ▽B波が動脈硬化を抑制

 動脈硬化とは、動脈の壁が厚くなってしなやかさが失われ、血液がスムーズに流れず詰まりやすくなる状態をいう。神戸薬科大学(神戸市)医療薬学研究室の佐々木直人准教授らは、動脈硬化を起こしているマウスの皮膚に、紫外線の中でも波長の短い紫外線B波(UVB)を照射する実験を行い、非照射のマウスと比較した。

日本では約4人に1人が、動脈硬化性疾患で死亡している

日本では約4人に1人が、動脈硬化性疾患で死亡している

 その結果、UVB照射により動脈硬化の進行が抑制されることが示された。さらに、照射されたUVBに反応する皮膚の抗原提示細胞という細胞を欠損したマウスでは、UVB照射による動脈硬化抑制作用は失われたことから、動脈硬化の進行・抑制にこの細胞が重要な役割を果たしていることが明らかになった。

 動脈硬化のメカニズムはこうだ。動脈の内側で血液と接している内膜の表面を覆っている内皮細胞には、血液の漏出や凝固を防ぐといった役割があるが、高血圧糖尿病などにより内皮細胞が傷つくと、血中のコレステロールが内皮細胞の隙間を抜けて内膜に入り込むようになる。するとコレステロールを処理するために白血球が内皮細胞の間から内膜に入り込んでマクロファージという貪食細胞に変化する。コレステロールをため込んだマクロファージは炎症を引き起こす。

 また、さまざまな病原体を排除する際に司令塔の役割を果たすT細胞が、脂質などを取り込むことで活性化し、炎症を起こす。こうして動脈内が慢性の炎症状態となり、脂肪物質が内膜にたまって肥厚し、動脈の内径が狭くなり動脈硬化が進行する。

 ▽皮膚疾患の治療に着目

 動脈硬化の発生・進行の過程に自己免疫の働きが関与していることは、これまでにも指摘されてきた。佐々木准教授は、実験の経緯について「T細胞の中には、免疫バランスを調節することで過剰な免疫反応を抑制するような制御性T細胞が存在し、この細胞を増加させれば動脈硬化の進行を抑制できるのではないかと考えました。紫外線照射により制御性T細胞を増やせることが分かってきており、アトピー性皮膚炎乾癬(かんせん)など皮膚の自己免疫疾患の治療で既に使用されている紫外線照射治療に着目したのです」と説明する。

 「UVB照射による治療は安価で、従来の治療では効果が得られにくいケースにも有効な治療法かもしれません。将来的には医療現場での応用が期待されます」と佐々木准教授は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)


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