Dr.純子のメディカルサロン

新型コロナ感染拡大のストレスを乗り切るために
~AIを使った新しいツールの活用を目指す~ 大野裕・認知行動療法研修開発センター理事長に聞く

 新型コロナ感染拡大で、不安が広がっています。経済的な不安や、在宅勤務による環境の変化などがあり、ストレスも多いと思います。

 こうした先の見えない状況の中で、不安を抱えている人が増えています。そこで、「認知行動療法」の第一人者である大野裕先生に緊急取材をお願いしました。

 ◆不安を感じるとよくない可能性を考えやすい

 海原 新型コロナへの不安に対して、個人でできる対処法や心構えを教えていただけますか。

 大野 新型コロナウイルス感染症は、ウイルス自体も、仕事や社会状況も、われわれが持っている知識では、対応できない部分があるため、誰もが不安を感じやすくなっています。

 そのように不安を感じるのは、自然な心の動きですし、自分を守るために必要なことでもありますが、そうしたときには、きちんとした知識を身につけるようにしてください。

 情報に関しては、専門家会議など、信頼できる情報源からのものに限るようにしてください。

 それ以外の情報源は、意識しないでも、悲観的な情報や極端な情報に偏ったりする傾向があります。ですから、自分に知識がないときには、必要以上に不安が強まる可能性があります。

 一人で判断するのが難しいときには、信頼できる人と話し合うことも役に立ちます。

 不安を感じたときや、落ち込んだときには、先に述べたように、必要以上に良くない可能性を考えやすくなります。

AIチャットボット「こころコンディショナー」のスタート画面【開発中ウェブサイトより】

AIチャットボット「こころコンディショナー」のスタート画面【開発中ウェブサイトより】

 逆に、不安を振り払おうとして、楽観的になりすぎて、危険な行動を平気でするようになることもあります。

 どちらも不安の副作用なのですが、こうしたときには、一度立ち止まって、冷静になって、自分の考えが極端になっていないかどうか、確認してみてください。

 特に、新しい行動をするときには、その行動をすることの利点と問題点を比較して、明らかに利点が多いと判断できる行動をするようにします。

 そのような判断をするときには、今すぐの利点だけでなく、先の利点も同時に考えるようにします。目の前のことに振り回されると、長い目で見て、失敗することもあるからです。

 新型コロナウイルス感染症が、何年も続く可能性は、低いと言われています。時がたてば、また元の生活に戻れる可能性が高いのです。

 ですから、その先まで考えて、そのために今、何ができ、何をすれば良いかを考えるようにしてください。

 もちろん、いくら冷静になって考えても、判断ミスは起きてきます。そのときに、何でも完璧に判断しないといけないと考えると、ストレスを感じます。失敗することもあるという現実を受け入れ、可能な範囲で対応策を考えておくようにすると良いでしょう。

 海原 一度考えだすと、不安が次々に湧き上がってきますよね。

 大野 ここまで考え方について話してきましたが、行動を通したストレス対処、つまり、気分転換についても、工夫してみてください。

 不安になったり、落ち込んだりしたときには、あれこれ良くないことを頭の中で考え続けて、それがストレスになります。

 そうした考えをストップするために、自宅で好きなことをしたり、家の外に出て、身体を動かしたりしてはどうでしょうか。

 もちろん、他の人との距離をきちんと取る必要はありますが、こうした方策で気分転換をすれば、気持ちが晴れて、前向きに考えられるようになります。

 海原 不安になったときは、考え方を一度、見直す。そして、体を動かすといったこともしてみるというステップですね。

 先生のグループで開発した、AI(人工知能)を使った認知療法による問題解決ツールについて、教えてください。こうしたツールはどのようなときに使うといいのでしょうか。

 ツールは、治療ではなく、不安がある在宅勤務のようなときに非常に役立つ気がしますが。活用方法など教えてください。

 大野 AIを使ったチャットボット「こころコンディショナー」は、ご指摘いただいたように、治療としてではなく、ストレスを感じたときに、心を整える手助けになるように、と考えて開発しているツールです。

 チャットボットといっても、なじみのない人がいるかもしれませんが、英語の「おしゃべり」を意味する「チャット」という言葉を、ロボットという言葉と組み合わせてできた新しい言葉で、「おしゃべりをするロボット」という意味です。




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