Dr.純子のメディカルサロン

メンタルヘルスへの取り組みが優良企業のカギ?
~英国の投資運用機関がグローバル展開視野に評価基準を公表~

 メンタルヘルスへの取り組みという視点で企業を評価する基準を、英国最大規模の投資運用機関のCCLAがまとめました。投資についてご存じない方にはなじみがないかもしれませんが、CCLAは環境維持や持続可能な社会への貢献を目指す活動をする立場で投資対象に働き掛ける運用機関で、責任ある投資行動を促す国連のPRI評価で「Aプラス」の高評価を得て信頼されています。今回、なぜ投資運用機関が企業のメンタルヘルスについて評価基準を作ろうとしたかについては、新型コロナ禍が影響しています。

(文 海原純子)

従業員のメンタルヘルスは企業収益にも関わる


 ◇コロナ禍で加速した取り組み

 コロナ禍以前の2017年、英国では年間30万人以上の働く人々が精神的な理由で離職をしていることが報告され、その経済的な損失が問題となっていました。そして投資家たちが企業のメンタルヘルスへの取り組みに問題意識と危機感を持ち、各企業に働き掛けが必要と感じていたのです。こうした中で新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。

 日本ではうつや若い女性の自殺が増えるなど新型コロナ禍とメンタルヘルスの関連が指摘されましたが、英国でも同様にメンタル不調の割合が増加。この状況で英国政府や投資家たちの間からメンタル不調による企業利益損失が懸念されたことから、企業によるメンタルヘルスへの取り組みを体系立てて評価しようという仕組み作りが加速しました。

 多くの機関投資家たちが後押しして、21年には英国内の30社のパイロット調査を行い、今年の5月26日に英国内の従業員1万人以上の上場企業100社を対象にした調査結果を「CCLA Corporate Mental Health Benchmark UK 100 」として公表しました。

 CCLAは対象となる企業のCEOに質問状を送り回答してもらうとともに、ホームページに公開されている情報を基にして評価を行っています。評価基準(ベンチマーク)は27項目から成りますが、

・メンタルヘルスへの改善計画が体系化しているか
・企業のCEOやトップの立場の人がメンタルヘルス支援を明確に表明して情報発信をしているか
・仕事の在り方や職場環境を含めてメンタルヘルスを守る体制ができているか
・マネジャーや管理職がメンタルヘルスについての知識と理解を深める研修を行い、リーダーシップの役割を果たしているか
・CEOが従業員のメンタルヘルスや幸せについて把握し、状況について定期的に情報発信しているか

ということが柱になっています。この中には、前提として

・公平な賃金や男女格差是正
・ワークライフバランス
・いじめやハラスメントのない職場

が含まれています。

スコア率に応じて5段階で評価される

 ◇予防型の指標

 日本でも企業で働く人のメンタルヘルスについては問題意識が高まり、ストレスチェックなどが行われています。経済産業省でも、従業員の健康管理を経営的な視点でとらえて進めている優良法人を認定する「ホワイト500」という制度ができています。

 ただ、英国のベンチマークは、企業による従業員個人のメンタル改善を目的とするのではなく、企業自体のメンタルヘルスへの取り組みの「評価と体系化」を行い、こうした体系を構築することで従業員のメンタルヘルスを未然に防ごうとする、いわば予防型の指標が詳細に検討されていることが特徴です。

 さて、この27の項目には個別に最大スコア(3~15点)が割り当てられていて、その合計点(フルスコアは222点)で評価し、さらに各企業のスコア率を基に5段階の取り組み評価を行っています。すなわち、トップは81~100%のグループ1であり、以下61%~80%のグループ2、41~60%のグループ3、21~40%のグループ4、0~20%のグループ5です。100社の企業名が公表されているのも驚きです。

 全体的に見ると、9割以上の企業が職場のメンタルヘルスは大事だと認識しているものの、メンタルヘルス対策に関して明確な目標を明らかにしているのは3割にすぎず、メンタルヘルス対策を評価する指標を設定しているのは、わずか11%でした。つまりメンタルヘルスは企業にとり大事であると認識はしているものの、どのようにそれを行うか、体系立てて「見える化」していない企業が多いということでしょう。

 このベンチマークについてCCLAは「企業を点数付けして評価することが目的ではない。これを基にして企業のメンタルヘルス対策を体系化して今後改善を進め、働く人が心地よく働ける職場になることを後押しするものであってほしい」とコメントしています。

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