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「北帰行」 吉岡利忠 弘前学院大学学長

 学生時代から出入りしていた基礎医学系の生理学教室に助手として入った。当時は学生運動の真っ最中。それが収まるまで、少し研究のお手伝いでもしようと考えてのことだった。研究心が燃えての結果ではなかったが、その環境にいるとその気になるもので、国内外で名を知られている教授の下での手伝いは楽しく、また自由にできた。

 生理学教室ではノーベル賞受賞者を含め著名な研究者が集まり、若くしてその雰囲気を味わったことは今の自分にさまざまな面でプラスになっている。これまでの経緯は決して自ら進んで行こうという能動的行為ではなく受動的であったことは後ろめたいが、その環境に置かれると、生理学でよく使う「生体は適応し順応し順化するもの」と思う。置かれた場所で咲きなさい(満開とまではいきませんが)、ということであろうか。

ノーベル医学生理学賞を受賞した大村智北里大特別栄誉教授(左)との交流

 臨床家は診療の場で悩める人たちと向き合うが、実験動物からその分野では超一流を自負する一風変わった研究者たち、他学部学生、教育者、事業者、企業者、一般の人など、さまざまな分野の人たちとのコミュニケーションは、私をフレキシブルな人間に育ててくれたと思う。その底辺には、東京慈恵会医科大学で理事長・学長を務めた阿部正和先生の教え「謙虚と言葉」が流れている。

 医学部の助手から講師となり、助教授、その間ペンシルベニア大学へ留学し、教授となり、保健医療福祉系の公立大副学長、そして地方私立大学の学長に至る経歴を振り返ってみると、周囲の人たちに支えられ後押しされここまで来た。

 弘前市で誕生し、東京都港区から神奈川県伊勢原市、川崎市、青森市へと移り、十数年前から出身地へ。いわゆる北帰行であった。(了)


吉岡利忠(よしおか・としただ)
弘前学院大学学長、青森県立保健大学名誉教授、聖マリアンナ医科大学客員教授

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