Dr.純子のメディカルサロン

世界トップ企業のメンタルヘルス対策を比較―英投資機関
~トヨタ、ソニーも対象に~

 皆さんは健康経営というとどんなことを思い浮かべますか。例えば従業員がきちんと健康診断を受けられるようにしている、職場の禁煙対策が進んでいる、ストレスチェックを実施している、長時間労働の是正が進んでいる、有給休暇が取れる、などではないでしょうか。個人に対するこうした支援は健康経営の基本であることは間違いありません。しかし、それだけでいいのでしょうか。

(文 海原純子)

 ◇気持ちよく働ける職場か

 個人が生き生きと働けるような労働条件を事業主がどの程度提供しているかを評価することを目的として、英国最大規模の投資運用機関CCLAが過去2年間、27の評価基準を構築しCorporate Mental Health Benchmarkを改良してきました。このベンチマーク作成には、外部メンバーとしてサステナビリティーに関する専門アドバイザリ―会社Chronos 、ハーバード大学のShekhar Saxena博士の他に私も参加しています。

 ベンチマークは企業全体、特にトップが職場の環境とメンタルヘルスの関係について把握し重要だと考える姿勢を方針として示しているかが大きなポイントになっています。メンタルの不調による経済的損失は大きく、こうした損失を少なくする対策が必要と言えますが、それをトップが認識して行動しているかが問われるものとなっています。

 今年初めには、これらの基準を用いて従業員1万人以上の英国の上場企業100社の公開情報についての評価と点数付けを行いました。

  ◇点数付け5段階評価

 メンタルヘルスのような複雑なテーマで企業を評価し、比較することには大きな課題が残りますが、この新しいベンチマークは、投資家が企業の情報開示と職場のメンタルヘルスに関する進展を促進するためのツールとして設計されています。

 そしてこの10月10日の世界メンタルヘルスデーには、「Corporate Mental Health Benchmark Global 100」が発表されました。世界を代表するグローバル上場企業を選んでいる株価指数(MSCI ACWI)に入っている従業員1万人以上のトップ100社について、ホームページの公開情報に関する評価と点数付けを行いました。日本の企業はトヨタ自動車とソニーグループの2社が対象となっています。ただ日本企業の割合は少なく、衝撃を受けました。

 この27の項目には個別に最大スコア(3~15点)が割り当てられていて、その合計点(フルスコアは222点)で評価し、さらに各企業のスコア率を基に5段階の取り組み評価を行っています。すなわち、トップは81~100%のグループ1であり、以下61%~80%のグループ2、41~60%のグループ3、21~40%のグループ4、0~20%のグループ5です。100社の企業名が公表されているのも驚きです。トップグループがTier1とされています。

 ◇カギはCEOのリーダーシップ

 このGlobal 100 では次のことが明らかになっています。

 1、グローバル企業のCEOのうち、職場のメンタルヘルスの重要性を表明しているのはわずか19%にすぎない

 2.グローバル企業はメンタルヘルスプログラムに多大な投資を行っているが、これらの取り込みに関するガバナンスやモニタリングが不十分

 3.職場のメンタルヘルスと経営との間に密接な関わりがあることを表明している企業はわずか28 %

などが明らかになりました。つまり、メンタルヘルスは大事だと認識してはいるが、それを企業トップがはっきり表明して企業ガバナンスとして打ち出してはいないという傾向が明らかになりました。

 企業の評価には衝撃がありますが、「企業の格付けをするものではなく、企業トップが自社の問題点を見直し働きやすい職場をつくるために役立ててほしい。企業のガバナンスを公開情報として表明してほしい」とCCLAの担当者Amy Browne氏は語っています。メンタルヘルス対策は人事・総務にお任せという企業トップは、健康的な職場づくりが生産性にも大きく影響することをぜひ再認識してリーダーシップを発揮してほしいものです。(了)

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