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歯学から口腔医学へ―福岡歯科大学
~全身の健康守る歯科医師育成~

 福岡市西部に位置する福岡歯科大学は、九州、中国・四国地方唯一の私立歯科大学として1973年に開学された。2004年に中期目標として「口腔(こうくう)医学の確立」を掲げ、05年には医科診療科の拡充を図るため、病院名を「福岡歯科大学附属病院」から「福岡歯科大学医科歯科総合病院」へと改称。22年に創立50周年を迎えた。口腔の健康を通して全身の健康を守る歯科医師の育成に取り組んでいる。髙橋裕学長は「時代のニーズに対応できる歯科医師の育成を目指しています」と話す。

髙橋裕学長

髙橋裕学長

 ◇口腔医学のスペシャリスト育成

 福岡歯科大学は「歯学から口腔医学へ」の理念のもと、口腔医学のスペシャリストの育成に取り組んでいる。

 「超高齢社会となった日本においては、従来の歯科治療だけでは十分ではありません。時代のニーズに対応できる歯科医師が求められています」

 従来の歯学に一般医学や福祉の要素を取り入れた、より総合的な口腔医学教育を実践するため、歯学の専門的な知識や技能はもちろん、内科や外科、耳鼻咽喉科など、関連医学の学びにも力を入れている。

 「20年に建て替えた新病院は旧病院の1.5倍の広さとなりました。歯科教育のスペースが広くなったほか、医科の診療スペースも拡大しており、歯学部として自慢のできる病院だと思っています」

 一方、02年には高齢化を見据え、敷地内に介護施設を設置。その他にも福岡看護大学、福岡医療短期大学、口腔医療センター、ぺんぎん保育園などを運営している。

 「医療と福祉を充実させることで地域に貢献できるだけではなく、学生や研修歯科医にとっても充実した教育の場となっています」

 ◇高まる訪問歯科のニーズ

 福岡歯科大学が積極的に取り組んでいるのが、手術前後の期間も含めた周術期における口腔機能の管理だ。

 「急性期の総合病院などからニーズが高まっているため、歯科医師会とも連携を取りながら訪問による歯科治療を行っています」

 手術で全身麻酔する際に、グラグラしている歯を放置していると、挿管時に歯が抜けたり、ブリッジが外れたりして肺の中に入るリスクがある。また、口腔内のケアが十分にされていない場合には誤嚥(ごえん)性肺炎を起こすこともあり、「手術前の口腔内ケアの重要性が指摘されている」と髙橋学長は話す。

 「手術後は、周術期に行った口腔内ケアの情報を地元の歯科医師と共有しています」

 月に1度、離島での訪問治療も行っている。

 「以前は、高齢者への治療を広く対応できる歯科医師が訪問していましたが、訪問先の患者さんの背景も多様化してきたため、例えばインプラントの部品が緩んだといった場合には、当院の訪問歯科センターからインプラントを専門とする歯科医師が訪問するなど、その専門分野の歯科医師が治療に行くようにしています」

福岡歯科大学本館

福岡歯科大学本館

 ◇専願S特待生制度で意欲ある学生に機会を

 福岡歯科大学は23年度の入学者選抜試験から、新設の「専願S特待生制度」を導入する。この制度は、これまでの特待生制度をグレードアップしたもので、6年間の授業料がトータルで1250万円減額される。具体的には、入学金の50万円と毎年の授業料が200万円減額となるため、6年間の納付金は1380万円となる。この背景について、髙橋学長は以下のように話す。

 「私立歯科大学の授業料は国・公立大学と比べても高額であるため、経済的な理由で入学を諦める人も見られます。本学は『歯科医師になりたい』という意欲のある学生が経済的な理由で断念することがないよう教育の機会を提供するために、この制度を取り入れました」

 選考人数は20人で、前年度の学業成績の平均点が80点以上で進級することなど、継続のための条件も設けられている。国・公立大歯学部に入学する場合にのみ入学を辞退することができる。

 ◇患者型ロボットで緊急対応を疑似体験

 歯科の診療時に過呼吸を起こしたり、急変したりする患者が少なくないという。そこで学生の実習に取り入れているのが、急変時の対応を疑似体験できる患者型のロボットだ。

 「患者さんが急変したときの動きを何パターンかコンピューターに組み込んでいるので、ロボットを用いて急変時の対応方法を学ぶことができます」

 福岡歯科大学には2体の成人型ロボットが設置されていたが、さらに3体目となる小児型ロボットも追加された。

 「5年生から病院での実習が始まりますが、心肺停止や嘔吐(おうと)による窒息といった容体急変時の対応に関する実習はないのが実状です」

 患者型ロボットを使った実習は5年生で行うが、このとき、医科のドクターが横について指導を行うという。

 「急変時、医師が到着するまでの間の緊急対応について学んでおくことが必要となります。特に子どもは特異な動きをするため、小児患者を想定したトレーニングを重ねることが重要です」

 小児ロボットは、身長110センチ、体重23キロで5~6歳児を想定した全身モデルで、小児歯科の教員により開発された。世界初の小児患者型ロボットだという。

インタビューに答える髙橋学長

インタビューに答える髙橋学長

 ◇近所の歯医者に興味

 髙橋学長は福岡歯科大学3期生で、18年に卒業生初の学長に就任した。

 「私が入学した当時、敷地内には附属病院や進学棟があるだけで大学の周辺は田んぼしかありませんでした。新しくできた私立の歯科大学ということもあって、教員や先輩方はパイオニア精神にあふれていました」

 歯科医師を目指したのは子どもの頃のことだという。

 「特に親族に歯科医師がいたというわけではありません。知り合いの歯医者に通っていた子どもの頃に『面白そうだな』と思ったのがきっかけです」

 髙橋学長の専門は、入れ歯などを専門とする歯科補綴(ほてつ)科だが、進路を決めるに当たっては大学5年の臨床実習での出来事が大きいという。

 「当時の学長が、診療で総入れ歯(義歯)の難治患者さんの治療をされていて、診療後に治療のポイントを教えてくれ、『ここで勉強したいな』と思い、歯科補綴科を専攻しました」

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