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怖い亜鉛欠乏症=口内炎や味覚に変化

 口の中が荒れて口内炎を起こしたり、普段食べている食べ物の味が変わったように感じて食欲が衰えたりする。このような症状があるとき、夏バテや加齢による変化と考えている人も多い。しかし、中にはミネラルの一つである亜鉛が欠乏している可能性があることを覚えておこう。

 亜鉛は、体内で多くの酵素の活性化などに不可欠なミネラルの一つ。推奨されている摂取量は、15歳から70歳未満で男性の場合1日10ミリグラム、女性は8ミリグラムとごく少量だが(1~14歳はより細かく分類されミリグラム)、その摂取量を満たしていない人は少なくない。血液検査では必要量の下限ぎりぎりを保ちながら、「傷の治りが遅い」「口内炎がたびたび起きる」といった症状に悩まされているケースも多いという。

 ◇難しい食事での摂取

 東京医科大病院(東京都新宿区)の榎本真理・栄養管理科長は、「亜鉛はカキが多く含むことで知られているが、毎日食べる人は少ない。日常食べる食品では牛肉や豚肉、のりなどが比較的多いが、どの食品も『これさえ食べれば大丈夫』といえるほどの量は含んでいない。バランスよく多くの食品を少しずつ食べるのが一番だが、それだけに難しい」と話す。

榎本科長が勧める食事は、日にローストビーフや焼き豚なら枚程度が目安。多くの食材を食べるために豚汁や八宝菜に少し多めに肉を入れるのも一案だ。高齢で食欲が低下した人でも毎日、あまり手間をかけずに取れることがポイント。「亜鉛は高齢者だけでなく、妊婦や授乳中のお母さんも不足しやすい。日に2~ミリグラムは推奨量に上乗せするように言われているが、鉄分や葉酸などと同様に不足している」

 ◇亜鉛補充剤が保険適用

極度に亜鉛が不足すると、より深刻な状態になり「亜鉛欠乏症」という病気として治療の対象になる。肝硬変でミネラル代謝に不調が生じた場合や先天的な遺伝子異常で亜鉛の摂取ができない場合は、肝臓の繊維化の促進や激しい皮膚炎などを引き起こす。こうなると亜鉛を薬として服用する必要が生じる。

製薬会社「ノーベルファーマ」(東京都中央区)は、それまでウィルソン病の治療薬として販売をしていた亜鉛製剤について、2017年月に国内で初めて亜鉛欠乏症の薬として保険承認を取得した。同社によると、亜鉛欠乏症の患者数は6.8万人と推定され、このうち万人が味覚異常とみているようだ。

亜鉛は体内の300以上の酵素の働きに関与しているため、欠乏すると多様な症状が生じ、治療に当たる診療科も多岐にわたる。重度の亜鉛欠乏症状が引き起こす肝臓や腎臓の病気専門医はもちろんのこと、成長の遅れなら小児科、味覚異常や口内炎なら耳鼻咽喉科歯科・口腔外科、治りにくい皮膚炎や床ずれの悪化であれば皮膚科など、それぞれの診療科が日常目にする機会が生じている。

 亜鉛欠乏症には承認された治療薬がこれまでなかったため、医師の間で積極的な診断がされてこなかった分野だ。血液検査により体内で不足しているか否かは比較的容易に判定できるので、地域医療の中でかかりつけ医が亜鉛欠乏を疑う症状がみられる患者さんに対し血液中の亜鉛値の検査を勧めることがポイントになる。

◇サプリ過剰摂取は危険

気を付けたいのが亜鉛成分の補充をうたったサプリメントの扱いだ。大量の亜鉛を含んでいても、吸収効率が低い亜鉛の多くは腎臓を通して体外に排出されてしまう。しかも多くのミネラルと同様、亜鉛も過剰摂取が続けば中毒症状を引き起こしたり、それ以前に腎機能の低下を誘発したりしてしまう。亜鉛の摂取上限量は原則として1日15ミリグラムとされている。

東京医科大病院の榎本栄養科長は「軽度の亜鉛不足は、不足が解消されればすぐに自覚症状も改善される。まずはどの程度不足しているか血液検査で医師に診断してもらい、回復したら服薬を止める必要がある」と言う。特に肝臓や腎臓などの病気で亜鉛の代謝が低下している場合、過剰な摂取は逆に腎臓に大きな負担を掛けてしまい、腎障害など亜鉛不足の原因となっている病気を悪化させてしまうこともある。

榎本科長は「サプリメントのユーザーには推奨量以上を飲む人も少なくないし、食習慣や持病、年齢による内臓機能の低下の度合いなどが異なれば、亜鉛の不足量も一人一人違ってくるのが当然だ」と指摘する。ベテランの榎本科長は患者の生活習慣をよく聞き取りながら、病状や治療の進行度合いに応じて病院食のメニューを調整。その上で同科長は「医学的には異常がないのに、より健康になりたいと思ってミネラルを多く含むサプリメントを摂取し続けると、金属中毒になってしまうこともある。鉄や胴、亜鉛などのミネラルも過剰摂取を続ければ中毒症状を起こすリスクがある。まず管理栄養士に食生活や症状を相談するか、医師の診察を受けた方がよいだろう」とアドバイスする。(喜多壮太郎)


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