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フェムテック
~女性の健康課題を解決する新たな分野~ ジェンダー平等など背景に注目集まる

 ◇女性の健康課題に関心集まる

 なぜ、フェムテックはブームとなったのか。まずはその背景にあるジェンダー平等や女性のエンパワーメントについて知る必要がある。

 例えば、セクシャルウェルネスについて語ることはタブー視され、月経や更年期における健康課題などに関しても「我慢するもの」「仕方ないから」とやり過ごされる風潮があったが、欧米を中心に女性の健康課題を解決することを目的とするフェムテックとともにオープンな話題となった。

月経カップ

月経カップ

 国内においても、20年にはナプキン、タンポンに続く「第3の生理用品」と呼ばれる吸水ショーツや月経カップを扱うスタートアップが台頭し、フェムテック振興の先導役となったことからも、同様の流れを汲(く)んでいると言えるだろう。

 社会として女性の健康課題にどう取り組んでいくべきかについて、これまで必ずしも広く議論されてこなかったが、こうした動向に関心が集まり、関係省庁も女性活躍・男女共同参画を推進するための方策として、制度上の対応を検討する動きが活発になったのである。

 特に、「月経に伴う症状」「不妊治療・妊活」「更年期における諸症状」の分野が注目され、女性活躍推進という観点では、女性の社会的・経済的活動に支障が生じたり、昇進を諦めたり、離職を余儀なくされたりといった課題を解決するために、企業による製品・サービスの開発・提供、女性従業員を雇用する事業主の取り組みも進んでいる。

 経済産業省は、21年度から「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」の間接補助事業を公募し、フェムテック企業と導入企業、自治体、医療機関等が連携して、働く女性の健康課題等を解消するためのサポートサービスを提供する実証事業を開始した。

 オンライン健康相談、妊活サポート、低用量ピルなどのオンライン処方などのサービスが福利厚生や独自の制度として導入されるケース、さらにはプレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら自分たちの生活や健康に向き合うこと)の一環として、卵子凍結やホルモン検査のサービスを提供する企業なども出てきている。

 特定非営利活動法人日本医療政策機構の調査によると、月経前に生じるPMS(月経前症候群)および月経に伴う諸症状のために、半数の女性が元気な時に比べて働くパフォーマンスが半分以下になると回答しており⑵、働く女性のパフォーマンスが低下することによる経済的損失額は約4900億円と見込まれている⑶。

 また、5.5組に1組の夫婦が不妊治療を受けている、または受けたことがあるとされており⑷、不妊治療を経験した女性の23%が離職を経験し⑸、11%が仕事との両立が困難であるために不妊治療を断念した⑹とされている。

 更年期に伴う症状についても、40歳以上で更年期障害や更年期症状があると回答した人のうち、仕事のパフォーマンスが半分以下に低下するという人が半数を占める結果となった⑺。

 フェムテックによって、女性の健康課題は個人にとっての悩みであるとともに、企業としても取り組むべき重要な課題であることが可視化されたとも言えるだろう。

 ◇フェムテックの市場規模と経済効果

 フェムテック市場は、米国を中心に16年頃からできた新興市場だが、その規模は25年には500億㌦へと成長するとの予測⑻もある。日本においても、19年から20年にかけて事業者数は倍増しており、スタートアップによる資金調達の動きも盛んになっている。

 ただ一方で、矢野経済研究所によるフェムケア&フェムテックの市場調査⑼によると、21年は前年比107.7%の642億9700万円、22年度は同109%の701億1300万円と予測されているが、成長市場ではあるものの依然として大きく開きがあり、「500億㌦」という数字が独り歩きしている感があることは否めない。

 では、国内におけるフェムテックはこの先どのように成長していくのか。経済産業省の見立てについて紹介しよう。

 20年度に行われた経済産業政策局経済社会政策室によるフェムテック産業の実態調査⑽では、働く女性のライフステージに沿う形で「月経」「妊娠・不妊」「更年期」と三つの分野に分けて試算し、25年時点のフェムテックの経済効果を約2兆円と推計している。

 この調査では、試算仮説・前提条件に示されている通り、あくまで働く女性の仕事におけるパフォーマンス改善や、退職・勤務形態変更そのものが減ることで生み出されるであろう「経済効果」として述べている。

 つまり、フェムテック製品・サービスが普及することでできあがる「市場」についての話ではなく、世間の注目を集めているとはいえ、それがそのまま市場拡大につながるとは限らない点には留意したい。

 海外のような規模感の市場にしていくためには、薬機法上の位置付け・承認プロセス、国民皆保険制度との兼ね合いなど、決して低くはないハードルがある。

 実のところ、フェムテックが一過性のブームとして終わることなく、さらに発展して日本社会に根付くためには、産官学が協力して適切なルールの下で良質な製品・サービスを世に送り出し、健全な市場を育成していけるかどうかにかかっているのだ。


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