漢方を知ろう
~大人も夏の自由研究~
◇子どもと一緒に
ツムラは2022年から、夏休み期間に子ども向けのオンライン見学会を開催している。今年の見学会に潜入してみた。
クイズを交えながら、漢方の歴史や漢方薬などについて解説が進む。「ヘビやタツノオトシゴも漢方薬か」「中国の薬か」などと問われると、大人も間違えてしまいそうだ。
質問コーナーでは、鋭い指摘や疑問が続々と寄せられ、答える役の「人参(にんじん)先生」はたじたじ。「なぜ漢方薬は粉末状が多いのか。錠剤にできないの?」には「一度に飲む量が多いので、錠剤にするとたくさんの数の薬を飲まなくてはならなくなる」と回答。それを避けるため、ツムラは粉末よりも粒が大きい顆粒(かりゅう)を作っている。確かに、苦味や癖のあるにおいなどは粉末や顆粒だと感じやすい。
子どもオンライン見学会では「チンピーちゃん」がクイズを出題した
また「漢方薬でも、飲み続けると副作用が起きるのか?」には「漢方薬も薬。長期間飲み続けたり、処方が適切でなかったりといった場合、副作用のような体調変化が起こることがある。定期的に医師や薬剤師に相談し、少しでも気になる症状が見られたときは確認してほしい」と呼び掛けた。
◇オーダーメードの治療
北里大の星野センター長も「漢方薬が広く周知され始めているが、薬だけが漢方ではない」と話す。はり、きゅう、体操療法である導引、食事をはじめとする生活面のアドバイスなどを含めた全体が漢方という考え方だ。
病気の捉え方も、西洋医学のように不調の原因を臓器や組織、遺伝子などを個別に検査して探るのではなく、全体を見てアプローチする。「例えば副鼻腔(びくう)炎という診断に対して、冷え性なのか熱がこもりやすいのかといった、患者の体質全てを踏まえて治療する。そのため、同じ病名・症状でも、患者によって処方が変わる」(星野センター長)。個々人の体質や生活に合わせたケアを行うための、いわば「オーダーメード医療」で、慢性期の患者に対して、おのずと治療の精度は上がるという。
「今年は暑気あたりを訴える患者さんが多い」と話す北里大・漢方鍼灸治療センターの星野卓之センター長
漢方では、体を構成する要素を「気・血(けつ)・水(すい)」などに分けて考え、これらが関わり合いながらバランスを保つことで体調を整えているとされる。気はエネルギー、血は全身に栄養を運ぶ血液、水は血液以外の水分を指す。全てが過不足なく満たされ、循環している状態が健康。何らかの原因でバランスが崩れると、不調になる。
漢方薬の処方だけでなく、食事や生活を整える指導なども含んだ全身のサポートをするという漢方の考え方は、西洋医学の社会からも注目され始めている。世界保健機関(WHO)は2019年、国際疾病分類に、伝統医学に関する章を初めて盛り込んだ第11回改訂版を正式に承認した。近年はインド伝統医学「アーユルベーダ」も注目されているという。
◇用途に広がりも
一方、既存の生薬が持つ従来の効能に、別の可能性を見いだす研究も進んでいる。主成分に「エフェドリン」を含む、有名な生薬の一つ「麻黄」には発汗作用、鎮咳(ちんがい)作用などがあり、風邪の引き始めなどに処方される葛根湯や麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)といった漢方薬に用いられる。ただ、血圧の上昇や動悸(どうき)、排尿障害などが起こる場合もあることから、高齢者や高血圧、心臓病がある人などには注意が必要だ。
この麻黄ががん細胞の抑制に効果があるという研究成果が発表され、体力が低下しているがん患者に処方できるよう、エフェドリンを除去した薬の開発が進められている。
星野センター長は「西洋医学のがん治療では、免疫力が落ちることが多い。漢方薬なら、がんそのものだけでなく痛みにも効き、また風邪の予防もできる」と力を込める。そして「一つの生薬には複数の成分が含まれているため、含有する化学成分を網羅的に解析し、客観性を担保しようと努めている。天然物は、いろいろな可能性を秘めていて、無限の解析ができると思う」と語る。(柴崎裕加)
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(2023/08/18 05:00)
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