Dr.純子のメディカルサロン

依存症を考える
~人生狂わせる怖さ~

 大リーグの大谷翔平選手の通訳だった水原一平氏のスポーツギャンブルと借金をめぐるトラブルは、国内外で大きな波紋を呼びました。人生を狂わせる依存症の怖さに改めて気付かずにはいられません。この機に依存について考えてみたいと思います。

(文 海原純子)
大谷選手(左)と元通訳の水原一平氏=2024年3月5日、米アリゾナ州グレンデール

大谷選手(左)と元通訳の水原一平氏=2024年3月5日、米アリゾナ州グレンデール

 ◇依存対象は物や行動

 依存症(アディクション)には、物質に対する依存と行動に対する依存があります。依存物質(薬物)は、中枢神経を刺激するリタリン、コカイン、アンフェタミン、覚醒剤、中枢神経を抑制するアルコール、バルビツール系睡眠薬、モルヒネ、ヘロイン、ニコチン、マリフアナ、他のストリートドラッグなどがあります。行動としてはギャンブル、ダイエット、過食、セックス、買い物、フィットネス、ゲームなどが挙げられます。

 ◇根底に「心理的苦痛からの逃避」

 人によって依存対象が異なるので、別物のように見えるかもしれません。しかし、その根底には「心理的苦痛からの逃避」という共通項があります。人が薬物などの物質に依存するのは、依存している間はつらさを忘れ、苦痛を和らげたり変化させたりできるからです。ギャンブルやアルコールなど依存する対象が違うのは、心理的苦痛を和らげるものに個人差があり、自分に合った薬理作用を持つ物質や行動に引きずり込まれるためとされています。

 気分が落ち込みがちで気力が湧かなかったり疲労感を覚えたりする人は、中枢神経刺激作用を持つコカインや覚醒剤で空虚感を埋めたり、ギャンブルやゲームで高揚感を求めたりしようとする傾向があります。これに対し、不安感を抱き感情を抑圧する傾向がある人は、アルコールにより不安を軽減し、リラックスした気分を求めるようになります。マリフアナも脳内の受容体に作用して不安や恐怖を調整すると推測されています。

 ◇断ち切れず生活破綻へ

 自分の感情をうまく表現したり受け入れたりできない、人間関係でストレスを抱え葛藤状況にある、感情的な苦痛があり手助けを求められない、などの状況が依存リスクを高めると言われています。つらいことに向き合おうとせず、心理的苦痛から逃げて何かに依存している間、気持ちは楽になるからです。

 しかし、何かに依存してしまうと、それなしでは暮らせなくなります。人生を支配されて社会生活や人間関係が破綻し、今度は依存を断ち切ろうとすることに人生を費やす羽目に陥るのです。

 ◇抱え込まない

 依存状態に陥らないための対策は大きく分けて二つです。第1に自分の心理的苦痛を抱え込まないこと、それを表現する手段や表現する場、信頼・相談できる専門家を見つけることでしょう。依存のスタートは心理的苦痛からの逃避だとしっかり自覚することが必要です。

 第2にトリガー、つまり依存に走るきっかけは何かについて気付く必要があります。怒り、不安、自己肯定感の低下、孤独、失敗、他者との比較、退屈、空虚など、どのようなときに依存行動や依存する物質に向かうのかを認識し、そうした場合でも乗り切れる対処方法を信頼できる専門家と話し合うことが重要です。

 「抱え込まない」心掛けが大事なのですが、相談したり弱みを見せたりすることに抵抗があり、生活が破綻ぎりぎりになるまで人に相談できないことが大きな問題と言えます。「自分とは関係ない」「人ごと」あるいは「このくらいだから大丈夫」と思わないことも大事です。つらいことがあると、ストレス解消のためとして多量のアルコールを飲んだり、買い物をして憂さ晴らししたりする行為が続く人は対策を根本的に見直してほしいと思います。(了)

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