現代社会にメス~外科医が識者に問う

「医師は特別」多様性を認めない
閉ざされた同質性組織が陥るリスク ジャーナリスト 浜田敬子さんに聞く

 深刻な外科医不足は昨今の外科医を目指す若者の急激な減少にある。主な理由として、長時間労働、給与が見合わない、訴訟リスク、女性医師への配慮のなさ等が種々の調査で挙げられている。一方、女性の医学部入学者の増加により外科志望の女性医師は増加傾向にある。さまざまな分野で多様な人材の活用が求められている中で、男性中心の医師の世界で女性が活躍し、外科医不足の救世主となるのか。自身の経験から多くの働く女性を取材し活動を続ける、ジャーナリストの浜田敬子さんが医師の働き方にメスを入れるとともに、女性活用のためのヒントを語る。

 ◇成功者たちの「低レベル」の意思決定

 河野 若手の外科離れが進み、深刻な事態になっています。外科医が驚異的なスピードで減っている理由として、医学部の女性比率の増加がよく挙げられます。医学部不正入試はやむを得ないと考える人も少なくありません。なぜ女性に対する不遇措置に走ってしまったのか、このようなことが起きる理由は何だと思われますか。

浜田敬子さん

浜田敬子さん

 浜田 外科医不足は本来、働き方を見直し、育児中の医師でも仕事が続けやすくするために主治医制をチーム制にするなど、多様な人たちが働きやすい職場の改善を真っ先に検討すべきです。けれども今の医療現場ではそういう発想にはなりません。それは医師の世界が閉ざされた同質性の高い組織だからです。

 私自身、かつて新聞社という長時間労働が当たり前の職場にいました。最初はつらいと感じるのですが、5年10年やっていくとその環境に慣れ、これを乗り越えないと一人前にはなれないという感覚に変わり、被害者が加害者側に回ります。そこに適応した人だけが生き残れる。これが同質性のリスクと言われるものの一つです。意思決定層の同質性が高い組織では、過去の成功体験を踏襲しやすく、外部からの意見に耳を傾けることをせず、個人の能力の総和よりも低いレベルの意思決定をしてしまいます。

 女性が高等教育を受け、高いスキルや知識を必要とする職業に就くことが可能な現代で、先進国の多くは女性の社会進出に伴い労働環境が改善されています。医師の多くは「医師は特別」と思い込み、女性が増えても外部の事例を見ようとしません。同質性の高い意思決定層の判断が繰り返されると、自分たちと違う多様な人たちは排除されます。このような組織が陥る一番のリスクは外部環境の変化に気付かなくなることです。

 ◇数が増えること前提の改善が先決

 新聞社もかつては「24時間働けないやつはダメだ」と言われてきました。そして何が起きたかというと、男性を含め若い人がどんどん辞めていったのです。さらにメンタルの不調に陥る人や健康を壊す人が続出しました。

 現在、新聞社でも女性の採用が4割近くになっています。10年ほど前に私がAERAの編集長をやっていた当時、すでに女性のメンバーが3分の2を占め、そのうち半分がワーキングマザーでした。時間的に制約のある彼女たちが十分に力を発揮できる環境をつくらなければいい雑誌はできないという必要性に迫られ、働く環境を変えていきました。労働環境が変わらなければ女性の外科医は増えないのですが、まずは数が増えることを前提に環境を先に改善していく必要があると思います。


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