治療・予防

他人の便を移植して治療―潰瘍性大腸炎
ドナーの募集スタート

 ◇厳しいドナーの条件

 FMTは、献血や臓器移植とは異なる。まず、移植する細菌はドナー自身の組織ではない。また、移植される患者の腸管は「体内」ではない。口から肛門まで〝一本の管〟で、腸壁は「体外」で皮膚と同じようなもの。移植に伴う拒絶反応はない。

腸内細菌叢バンクの流れ(提供: メタジェンセラピューティクス)

腸内細菌叢バンクの流れ(提供: メタジェンセラピューティクス)

 しかし、移植後の安全を担保するため、ドナーに厳しい条件を付けている。花粉症やアトピー性皮膚炎などの免疫疾患のある人や、直前に発熱下痢症状があった人はドナーになれない。

 献便の段階から製剤になるまでドナーは少なくとも2回、便そのものに対しても全数検査を行い、ようやく治療に用いられる仕組みだ。「健康な人の、バランスの取れた腸内環境そのものを、なるべく手を加えずに移植したいと考えている」(石川医師)。26年ごろまでに1000人のドナー登録を目指す。

「FMTはアンメット・メディカル・ニーズ解決に貢献できる」と話す石川医師

「FMTはアンメット・メディカル・ニーズ解決に貢献できる」と話す石川医師

 ◇がん治療の手助けも

 FMTは、炎症性腸疾患以外の治療でも、成果が期待されている。

 がん治療の選択肢の一つ「免疫チェックポイント阻害薬」は、効果が得られる患者と得られない患者が存在しており、課題とされている。後者に対するアプローチとして可能性が示唆されている。

 腸内細菌のタイプによって、薬の奏効割合が左右されることが最近の研究で分かってきた。効果が得られた人の便を得られない人に移植後、再度、免疫チェックポイント阻害薬を使うと、改善された。移植により免疫が安定するため、副作用も抑えられることが明らかになっている。

 石川医師は「便ががんを直接治すわけではないが、薬剤の効果を上げることで治療の手助けになる」と話す。がんの他にも、中枢神経系疾患であるパーキンソン病、アレルギー疾患などの領域に研究を広げている。

 ◇ドナー1000人、不可欠

 潰瘍性大腸炎の国内の患者数はここ10年でおよそ2倍に増え、20万人を超える。移植が広く認知され、患者が希望したとしても、数人のドナーではカバーは難しい。逆に、バンクに多く登録されれば「このドナーとは、どの患者さんがマッチングするか」といった対応ができる。患者の疾患や特性に合った腸内細菌叢を選んで移植できる枠組みが理想だ。石川医師は「ドナー1000人というのは、将来的に必ず必要になってくる数。今から理解・啓発がとても重要と考えている」と話している。(柴崎裕加)


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