主治医に相談を
~がん悪液質(東京医科歯科大学病院 浜本康夫教授)~
進行がんの合併症の一つで、体重減少や食欲不振が起こる「がん悪液質」。生活の質(QOL)やがん治療にも悪影響を及ぼすため、予防に努め、早めに治療を開始することが重要だ。東京医科歯科大学病院(東京都文京区)臨床腫瘍科の浜本康夫教授は「代表的な症状に気付いたら、遠慮せず主治医や看護師に相談してほしい」と話している。
がん悪液質は進行度によって3段階に
◇膵臓がんに多い
主な症状は、体重減少や食欲不振の他、全身の倦怠(けんたい)感、骨格筋量の減少などに代表されるサルコペニアだ。抑うつ症状や不安が出る場合もある。
通常の栄養摂取のみでは完全な回復に至らない。進行度によって「前悪液質」、「悪液質」、「不応性悪液質」があり、進行すれば生命予後にも悪影響となる。がんそのものによる痛みや、治療に伴う味覚の変化といった副作用からくる食欲不振など複合的な原因による。
過去半年間で▽体重減少が5%超▽BMIが20未満かつ体重減少が2%超▽サルコペニアかつ体重減少が2%超―のいずれかで、口からの飲食が困難、全身に炎症反応が見られる場合、がん悪液質と判定される。
がん種などにもよるが、がん患者の28~57%で生じるという。「特に多いのが膵臓(すいぞう)がんで、次いで胃がん、そして肺がんです。大腸がんでも起こります」
◇初の治療薬アナモレリン
がんや治療に伴う体重減少や食欲不振は「仕方がない」ととらえられ、悪液質に対する有効な治療法はなかった。また、がん治療では優先的に対応すべき事柄が多く、悪液質は後回しになりがちだという。
そうした中、2021年に初の治療薬アナモレリンが登場。胃から分泌され食欲を刺激するホルモン(グレリン)と同様の働きを持つ。
臨床試験で身体機能やQOLの改善は示されなかったことを受け、欧米では承認申請が却下されたものの体重減少は抑えられる。このため国内では現在、非小細胞肺がん、胃がん、膵臓がん、大腸がんへの処方が認められている。「前悪液質と悪液質の状態であればアナモレリンの有効性は期待できます」
栄養療法や運動療法なども重要だ。特にがん診療連携拠点病院には栄養や運動などを専門とするさまざまなエキスパートが在籍しているため、予防のためにも治療開始当初から積極的に相談するとよい。
「患者さんには、半年間に5%の体重減少があれば、遠慮せずに主治医や看護師に相談してほしいです。その際、『悪液質』という言葉を出すことで医療者にも理解されやすく、すぐに対応してもらえると思います」と浜本教授は呼びかけている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/12/02 05:00)
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