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ロボットが変える手術=執刀医はコンソールで操作

 
 ◇遠隔治療にはリスク

 導入直後に期待されていたのは医師が介在しない無人のロボット手術だった。

 しかし、課題があった。吉岡センター長は「がんの形態や患者の体内の状況は千差万別だ。自律型プログラムで手術しようとすると、このような差異を無視してより大きく切開し、腫瘍部を切り取ることになる。その結果、精密な手術を可能にすると言うロボット手術のメリットが失われてしまう」と指摘する。

 東京などの医療機関にいる医師が離島などの医療機関に置かれたダヴィンチを操作するという遠隔手術についても、「通信回線の容量にもよるが、どうしても操作時にタイムラグが生じてしまい、微妙なずれが出てしまう危険が残る。さらにダヴィンチも機械なので、故障というリスクもある」と指摘。現在でも故障に備えて開腹手術へ即時に切り替えられるスタッフと設備の配置が義務づけられていることから、「もし遠隔手術を実施できるとしても、患者に同様の手術が可能な医師が付き添う必要がある」と話す。

 ◇メリットと今後の課題

 吉岡センター長がダヴィンチについて評価するのは「手術技量の底上げへの貢献」だ。従来の腹腔鏡の狭くて遠近感がつかみにくい画像から、立体的で十分な視野が得られるようになったことが、名人的な技量や豊富な経験が無くても余裕のある執刀を可能にした。

 また、扱いにくいマジックハンドを画像と先端から伝えられる頼りない感触に頼って操作する従来の手術に比べ、可動範囲が広く機械的なアシストも受けられるダヴィンチでの執刀は「まるで手元で執刀しているようで、手術時の自由度は比較もできないくらい大きくなった」と言う。より多くの医師がダヴィンチ手術の経験を積み、個人的な技量はもちろん、手術に臨む医師や看護師全体のチームとしての力も高まるメリットもある。

 今後の課題は、現在はほぼ前立腺がんなど一部に限られている健康保険の適用範囲を広げることだ。既に胃や咽頭、子宮頸(けい)がんへの手術が先進医療として認められているが、保険ほどカバーされず、医療機関も限られる。

 吉岡センター長は「肋骨が妨害する肺など胸部の手術や他の内臓を傷つける恐れが多い膵臓(すいぞう)など腹部の手術では、開口部が小さくても執刀の自由度の高いダヴィンチは非常に役に立つ可能性がある」と話している。

(喜多壮太郎)
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