治療・予防

大腸がん、進歩する薬物療法
~切除不能ながんでも予後改善~

 ◇励まし、励まされ

 中川裕子さんは大腸がん(直腸がん)のステージ4で、遠隔転移がある。食欲が落ち痩せ、夏でも寒く感じるなど体調が悪くなったと感じていた。会社の健診と精密検査を経てクリニックを受診。卵巣の腫瘍が疑われたが、そうではなかった。その後、会社でひどい腹痛に襲われ、緊急搬送。大腸がんで「永久ストーマ(人工肛門)になる」と告げられた。2週間に1回、抗がん剤治療を受けている。問題は仕事と治療の両立の悩みだ。
 「会社の人にはなかなか理解してもらえない。でも、働けなければ治療を続けることができない。毎日必死で生きていた」
 現在の抗がん剤は5種類目で、皮膚の障害や口内炎などの副作用がある。がんと闘う中で、「同じ患者とSNSで交流したことが転機になった。さまざまな情報を得ると同時に、励まし、励まされている」と話す。

「がんノート」代表理事の岸田徹さん

「がんノート」代表理事の岸田徹さん

 ◇患者の経験談発信
 NPO法人「がんノート」は、がん患者の経験談をYouTubeで発信している。インタビューを受けた人は400人を超える。代表理事の岸田徹さんも希少性がんの当事者だ。
 出版活動を含め情報発信に取り組む岸田さんによれば、がん患者はさまざまな悩みを抱えている。手足のしびれに苦しみ、水に触れるだけで痛い。手術後の排泄障害でトイレが気になり、外出がおっくうになる。性に関する悩みがあるが、なかなか相談できるところがない。
 「病院の先生からは治療や副作用の話しか聞けなかった」
 「AYA世代(15~39歳)のがん経験者の情報が少なくて困っている」
 同じように苦しんでいるほかの患者の経験を知りたいという思いが強い。
 がん患者は決して孤独ではなく、つながりを持てる。岸田さんは前向きになってほしいと願う。「延命ではなく、今を生きるため」「今できること(治療)は今する」というがんノート発信の患者の発言は胸を刺す。
 ◇医師と患者で治療法探る
 最近、シェアード・ディシジョン・メーキング(SDM)という考え方が注目されている。医師が一方的に治療方針を決定するのではなく、患者と相談しながら模索する「共同意思決定」だ。岸田さんは「医師は選択肢を提示すればよいと曲解されている面もある。一緒に決めていくことが大事だ」と強調する。室副院長は「SDMを行うのは『10分診療』では難しい。30分くらいは時間をかける必要がある」と話す。(鈴木豊)

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