こちら診察室 内視鏡検査・治療と予防医療

「血糖値が高い」と言われたら?
~放置できない糖尿病のリスク~ 【第9回】

 今回は消化器内科と並んで当院で診察を行っている糖尿病について説明します。学会などからは「ダイアベティス」という呼び名も提案されていますが、糖尿病という呼び方が広く知られているのではないでしょうか。

 この病気の歴史はかなり古く、紀元前1500年ごろにエジプトで作られたパピルス(紙)にすでに「極度の多尿」という糖尿病を思わせる記述が見つかっています。また平安時代の貴族、藤原道長は当時の記録から患っていた可能性があるそうです。

糖尿病にならないため、肥満、食生活の乱れ、運動不足などに気を付けたい(イメージ画像)

糖尿病にならないため、肥満、食生活の乱れ、運動不足などに気を付けたい(イメージ画像)

 インスリンの働きが不十分

 糖尿病とはインスリンの作用が十分でないためブドウ糖が有効に使われず、血糖値が普段より高くなっている状態」とされます[1]。

 私たちは食べ物から栄養を摂取して生きています。食べ物に含まれるエネルギー源は炭水化物、脂質、たんぱく質が挙げられ、ごはん、パン、麺類といった炭水化物から摂取する栄養が最も大きな比率を占めます。炭水化物は消化によってブドウ糖に変化します。ブドウ糖は小腸から吸収され、血液の中に入ると血糖値が上昇。血糖値が上がると膵臓(すいぞう)に存在するベータ(β)細胞からインスリンが分泌され、筋肉や脂肪にブドウ糖を取り込んで血糖値の上昇を抑えます。

 糖尿病インスリンの働きが低下することが主な原因で、インスリンの分泌が少なくなるパターンと、ブドウ糖を筋肉や脂肪に取り込ませる作用が低下するパターンがあります。多くの患者さんは両方に当てはまります。

 ◇1型と2型

 糖尿病は大きく分けて「1型糖尿病」と「2型糖尿病」の2種類があります。1型はインスリンがほとんど、あるいは全く分泌されない状態です。多くは遺伝やウイルス感染をきっかけに膵臓のβ細胞が破壊されてしまうのが原因です。手術などで膵臓を摘出した場合も発症します。1型の治療ではインスリンの使用が必須となります。

 2型は日本人に多いタイプです。インスリンの分泌不足、または細胞がインスリンに反応しない状態(インスリン抵抗性)がきっかけで発症します。発症には遺伝的要因、食生活の乱れ、運動不足、肥満、加齢、ストレスといった複数の要因が関係しています。2型は1型に比べてゆっくりと進行することが多く、早期発見・治療が重要です。早期に発見できると強い薬を使用しなくてもよかったり、生活習慣の改善から始められたりします。気になる点があれば専門医に相談しましょう。

 ◇懸念される合併症

 検診などで血糖値が高いと言われても、初めのうちは症状がありません。しかし、血糖値が高い状態が何年も続くと体内の太い血管、細い血管それぞれに炎症が生じ、心臓の病気や腎不全、視力低下、手足の神経障害といった合併症が起こることが知られています。

 高血糖になると、太い血管で動脈硬化が生じ、血管が詰まりやすくなるために心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉塞(へいそく)性動脈硬化症が起こります。研究では、糖尿病がある方に狭心症や心筋梗塞の起こるリスクは約2~3.5倍、脳梗塞のリスクは約2倍と言われています[2][3]。

 他方で末梢(まっしょう)血管にも炎症が起こり、以下の三つをはじめとしたさまざまな合併症につながります[4]。

 ● 神経障害:過剰なブドウ糖が神経にたまったり、神経を取り囲む細い血管を傷付けたりした結果、神経の機能が低下する。痛みや温度を感じる末梢神経が傷付くと、しびれや痛みなどさまざまな症状が表れるほか、感覚がまひすると、やけどや傷の痛みを感じなくなることから治療が遅れ、足の潰瘍や壊疽(えそ)、切断に至る場合もある。内臓の機能を調節する自律神経系が侵されると、だるさ、便秘下痢めまい、勃起障害などの症状も。

 ● 網膜症:目が光を感じる主な場所である網膜の血管が障害され、光を感じにくくなる。進行すると眼底出血や網膜剝離によって失明し、生活の質を大きく下げてしまう。

 ● 腎症:腎臓は血液をろ過して尿にするフィルターのような臓器で、腎症になると血液をろ過する血管である糸球体が障害され、機能が低下する。放置すると腎不全になり、最終的には人工透析に至るケースも少なくない。

 神経障害、網膜症、腎症の三大合併症はそれぞれの頭文字をとって「しめじ」と呼ばれており、症状もこの順番で出ることが多いとされます。また糖尿病による血管障害に限らず、高血糖状態そのものが体の免疫力を落とすと考えられており、糖尿病患者さんは細菌や真菌(カビ)による感染症にかかりやすいことも知られています。

 昨年の大河ドラマでお笑いトリオ、ロバートの秋山竜次さんが演じた藤原実資の日記「小右記」には、藤原道長は51歳ごろから頻繁に水を飲み、突然痩せた後に失明し、時折胸の痛みに悩まされたと記されています。おそらく糖尿病性網膜症や狭心症を患っていたのでしょう。背中や腹部に頻繁にできものが生じたという記述からも、免疫力が低下していたとみられます。

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