ヘルスコミュニケーションDr.純子のメディカルサロン

AIにカウンセリングは可能か
精神療法にも変化の波 大野裕・認知行動療法研修開発センター理事長


 大野 認知行動療法にIT機器を活用できないかということを私が具体的に考えるようになったのは2008年のことです。そのころ、携帯電話のサイトでは「寂しい」というキーワードで検索をする人が多いこと、しかし「寂しい」で検索すると、いかがわしいサイトに行ってしまうことを知りました。

 それで、寂しいと感じている人に本当に役立つサイトを作りたいと考え、ストレス対処法としても効果が実証されている認知行動療法を自己学習してもらうためのサイト「こころのスキルアップトレーニング(ここトレ)」を開発しました。

 今でも悩んでいる人がいろいろなサイトを利用していると聞きますが、そうした人たちがこのサイトを使ってストレス対処力を身につけていただけるとありがたいと考えています。もちろん、悩みが高じて精神的な不調を体験している方は、専門家に相談していただきたいと思いますが、英国などでは、専門家に相談する前段階として、つらい気持ちを和らげたり、ストレスに対処する力を伸ばしたりするために、こうしたサイトが活用されています。


 ◇ロボットが相手をする利点

 海原 カウンセラーとクライアントの関係性は難しいと思います。依存的になったり、相手が人間であるだけにもっと分かってほしいと思う期待感があったりで、カウンセラーに対する不満が出ることもしばしばだと思います。この人と一緒にやっていこうと思えるカウンセラーに出会うのも、なかなか大変です。AIやIT機器を使ったカウンセリングは、カウンセラーとの関係や距離感が一定で、「悩んでいる人ファースト」な感じがしますね。eラーニングに慣れている世代には特になじみやすいという気がしました。

 大野 カウンセラーとクライアントの関係性が難しいというのは、その通りだと思います。人によるカウンセリングは確かに効果的ですが、一方で、落とし穴もあります。以前、ある高齢者施設で利用されている会話ロボットについての報道を見た時、特にそのように感じました。最近は会話ロボットを導入している高齢者施設がありますが、それを使っている高齢者が、人から言われたら傷つくような言葉でもロボットなら許せると語っていたのです。

 人間相手であれば、これくらい分かってくれて当然だろうと期待して、分かってもらえないと傷つきます。また、自分の気持ちを無視して一方的に話をされると傷つきます。そのような状況を目にすると、人間に比べて機械の方が人を傷つける可能性が低いのかもしれないと考えることがあります。相手がロボットだと、私たちはそれほどには期待しないから、許せる範囲も広いのです。

 それに、人間だと、相手のことを考えずに、一方的にアドバイスをしたり、励ましたりしてしまうことがあります。しかし、IT機器の場合、自分から一方的に話し掛けないように設計することが可能です。仮にIT機器が一方的に話し掛けてきて、うるさいときには、スイッチを切ればそれで終わりです。つまり、自分が主導権を握ることができるのです。

 相談している人が主役という、この関係性こそ、精神療法やカウンセリングの基本で、IT機器でそれを実現することは可能です。また、認知再構成法や行動活性化などの認知行動療法の定型的なスキルの練習はコンピューターが得意とする分野ですから、そこでもIT機器を活用できる可能性は高いと思います。これは、世代にかかわらず当てはまるようです。実は、私のサイト「ここトレ」は、若者から高齢者まで幅広い方々に利用していただいているのです。

 だからといって、精神療法の分野でAIを組み込んだIT機器が人間に取って代わるかというと、それは無理だろうと私は考えています。専門家がつくり出す場の雰囲気や専門家の第六感ないしは肌感覚など、機械ではできないことがたくさんあります。専門家はそこに集中して専門家らしさを生かし、IT機器の方がうまくできる定型的な部分はIT機器に任せるといった具合に、人とIT機器の得意分野を生かした協業を実現できれば、精神療法はさらに発展すると考えています。

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