Dr.純子のメディカルサロン

AIにカウンセリングは可能か
精神療法にも変化の波 大野裕・認知行動療法研修開発センター理事長


 ◇ITで面談がスムーズに

 海原 IT機器を使ったハイブリッド型の認知行動療法が最近、開発されていると伺いました。どのようなもので、効果はどうなのか、教えてください。

 大野 ハイブリッド型認知行動療法はブレンド認知行動療法とも呼ばれます。通常の対面式の面談の中で、IT機器を利用する方法です。そうすることで、面談がスムーズに進むようになります。また、面談で実施したことを面談後も繰り返すことが可能になり、治療効果が高まる可能性が考えられています。

 そうしたことから、慶応大学医学部の中川敦夫先生や中尾重嗣先生たちが、抗うつ薬の効果が思うように得られなかったうつ病の患者さんに協力していただき、私のサイト「ここトレ」を使って、ハイブリッド型認知行動療法の治療効果を検証するランダム化比較試験を実施しました。

 その結果、ハイブリッド型認知行動療法は、比較的短期間に、通常の対面式個人認知行動療法と同等以上の効果が得られることが分かりました。しかも、治療を中断した人が一人もいなかったのです。このような結果が得られたのは、インターネットの支えがあると、治療者も患者も安心して治療に取り組めるようになるからではないかと考えています。

 海原 
こうした治療法は、カウンセラーに頼るだけではなく、人と協力しながらも「自分の力で立ち直れた」という自己肯定感が生まれるような感じがありますね。

 大野 認知行動療法の創始者のアーロン・ベック先生は、落ち込んでいるときの考え方の特徴を悲観的認知の3徴と呼んでいます。つまり、私たちは落ち込むと、自分の能力、周囲との人間関係、将来への展望の三つの領域で自信をなくし、悲観的に考えるようになるというのです。

 その結果、うつ病の人は先に進めなくなって、ますます自信をなくすという悪循環にはまり込んでしまいます。そうしたときに、カウンセラーや仲間の力を借りながら、自分自身がIT機器を使って問題に対処したという体験ができると、自分の能力に自信が持てるようになり、自己肯定感が高まります。

 そうすると、周囲の人への信頼感が強まり、将来に対して希望が感じられるようになってきます。そして、前向きに考えられるようになり、ストレスを感じるような状況でも、へこたれずに対応できるようになるなど、心の力を上手に発揮して自分らしく生きていけるようになります。

 海原 うつまでいかないけれど、心の癖があり、つい悲観的に考えてしまうような傾向がある方にも、こうした自分でできるIT活用カウンセリングは有効だといえますね。

(文 海原純子)

 大野裕(おおの・ゆたか)
 一般社団法人・認知行動療法研修開発センター理事長。ストレスマネジメントネットワーク代表。
 慶応大学医学部卒業後、同大学精神神経学教室に入り、米コーネル大学医学部、米ペンシルベニア大学医学部で学んだ。慶応大学教授を経て国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長に就任。現在は認知行動療法センター顧問。国際的な学術団体 Academy of Cognitive Therapy の公認スーパーバイザーで、現職では他に日本認知療法・認知行動療法学会、日本ストレス学会、日本ポジティブサイコロジー医学会の理事長を務める。認知行動療法活用サイト「こころのスキルアップトレーニング」を発案・監修。


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