一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏
(第10回)手術で患者が死亡=土下座し謝罪
クリップ1本では心配だと思い、念のため2本のクリップを血管に掛けた。手術は終盤に差し掛かり、いよいよ塞栓物質を注入する段階にきた。最初4CCほどは問題なく入っていったが、腫瘍が大きかったので、さらに追加で注入した。その瞬間、クリップが緩んで塞栓物質が脳幹に流れ込んでしまった。
「あ、これはもうダメだと瞬間的に分かりました。一瞬、時間が止まって空気が凍り付いたような、あの感覚は今でも鮮明に覚えています。と同時に、必死に何て言い訳しようか、どうやってこの窮地を逃れようかと考えていました」
その時に突然、今は亡き師匠、伊藤善太郎氏の言葉が頭をよぎった。
『患者は命をかけて医者を信用して手術台に上る。お前はその信頼に何で応えるんだ』
「言い逃れしようとした自分が限りなくこの世のカスみたいに思えてね。これで医者を辞めることになったとしても、僕を信頼した人が命を、人間をやめなければいけなかった。しかも、上司とのくだらない確執もあって。だから結局は僕のミスなんです」
個室の病室で待つ家族のもとへ向かい、その場で土下座をして謝った。四つんばいになり、「私のミスでお父さんを助けられなかった」と、泣きながら床に頭をこすりつけた。泣きじゃくるお母さんの隣で、高校生の長男は「お父さんは先生のことが大好きだって言ってた。その大好きな先生がやったことだから、僕はいいとか悪いとか何もいえない」と泣きながら言った。
小さい頃からガキ大将で負け知らずの上山氏が、人に頭を下げて謝る、しかも土下座をするのは人生で初めてのことだった。(ジャーナリスト・中山あゆみ)
→〔第11回へ進む〕戦力外、旭川に=手術の腕で「上」目指す
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(2017/11/16 10:34)