女性アスリート健康支援委員会 女子選手のヘルスケアを考える

過酷な体重管理、引退後も尾を引く摂食障害
「人生を長い目で見て指導を」と訴え―原裕美子さん

 ◇今も治療中、歯にも大きなダメージ

 ―10年に故小出義雄監督(女子マラソンの五輪金メダリスト・高橋尚子さんらを育てた指導者)のチームに移籍しました。

 小出監督からは「調べたら、骨がスカスカで、骨粗しょう症になっているよ」と言われて、骨粗しょう症の薬を飲みました。

 摂食障害などの体験を語る原裕美子さん
 監督に出会って初めて「食べて吐いている」と打ち明けることもできました。「あっ、摂食障害だね。ちゃんと治療しないと。吐いてたら走れないし勝てない。何より子どもが産めなくなっちゃうよ」と言われて、北海道マラソンの優勝後に初めてカウンセリング治療を受けました。「もっと早く打ち明けていれば、こんな苦しまなくて済んだな」と思いましたね。

 ―引退した今も治療中で、体にはいろいろ影響が出ているそうですね。

  例えば(摂食障害では、食べ物を吐くときの胃酸で歯がむしばまれるため)奥歯にインプラントをたくさん入れました。軽自動車を4台買ってもお釣りが出るくらい歯に治療費をかけています。本当に難しい病気だと思います。

 月経は、引退後も来ない時期が長くて不安でした。今は戻って安心しています。

 ―減量でパフォーマンスが落ちたり、障害が出て競技を続けられなくなったりする選手もたくさんいます。

 3年ほど前に見た強豪高校の練習は、私の時代よりも質量共にハイレベル。食事では、選手の「マイお茶わん」のご飯が、上からのぞきこまないと見えないほどの量しかなく、マッサージで体を触ると「どこに筋肉が付いているの」と感じるほどの細さでした。駅伝などのテレビ中継を見ても、中学・高校から厳しい体重制限を受けているなと感じています。

 ジュニア期は、将来のために体、骨、筋肉と中身をつくる時期。指導者としては子どもたちに結果を出してほしいし、親も子ども本人も、いい結果を出したいでしょうが、やらせ過ぎたり(体重制限で)体をつくり過ぎたりすると、その先に伸びなくなってしまいます。

 仲間を大切にするといった心の内面を育てることも大切。心があるから大人になってつらいことにも耐えていけるので、スイッチを切り替えていただけるといいなと思います。

 ◇指導者の一言で子どもは変わってしまう

 ―治療を続けながら、周囲や家族とどう向き合いましたか。

 勇気を持って打ち明けたら、「つらくなったら連絡して」「つらくなる前に言ってよ」と心配してくれました。だからこうして明るく元気でいられます。周りの方に支えられているという感謝の気持ちも、より強くなりました。

 今、市民マラソン大会にボランティアやスタッフとして関わらせていただいていて、「あっ、こんな楽しみ方もあるんだな」と感じ、すごく楽しいですね。

 来場者も真剣に耳を傾けた
 ―指導者に伝えたいことは。

 子どもたちは純粋で、先生や先輩に逆らえない。私はつらい思いだけではなく、いろいろな経験をさせていただいて感謝もしていますが、先生の一言によって子どもたちは変わってしまいます。

 選手をやめてからの人生も長く、何より大切です。「今だけのため」「この大会のため」ではなく、その子の人生を長い目で見た指導を常に心掛けてほしいと思っています。

 ―最後に、女性アスリート、特に十代の女子選手にメッセージをお願いします。

 もしも摂食障害になってしまったら、打ち明けられる人に早めに相談するか、勇気を出して病院に行く一歩を踏み出し、早期に治療してほしい。1本の歯の治療と同じで、ほっておいたら周りの歯もどんどんひどくなり、治すのに時間もお金がもかかってしまいます。(構成・水口郁雄)

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