「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

マスク緩和は段階的に (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第58回】

 政府は新型コロナウイルス対策のためのマスク着用の考え方を変更し、3月13日から個人の判断に任せることにしました。基本的にはマスクを外す方向ですが、着用を推奨する場面も幾つか提示しています。マスク着用は過去3年にわたり行われてきた感染対策で、今や私たちの日常的な習慣になっています。それを変更すると言われても、すぐには対応できない人も多いと思います。「感染が心配だから着用を続けたい」と思う人も少なくありません。そこで、今回は3月から始まるマスク緩和の具体的対応について解説したいと思います。

東京・新宿の交差点。屋外でもまだ多くの人がマスクをしている

東京・新宿の交差点。屋外でもまだ多くの人がマスクをしている

 ◇なぜ着用してきたのか

 新型コロナウイルスの流行が拡大した2020年1月には、このウイルスが飛沫(ひまつ)感染や接触感染でまん延することが明らかになっていました。その一方で、感染者が周囲の人にウイルスを感染させる時期が、はっきりとしませんでした。例えば、インフルエンザでは症状が出現した後に感染させることが大部分です。このため、流行当初は新型コロナも同様と考え、症状のある人にマスクを着用してもらう「せきエチケット」という対策が取られました。しかし、日本で第1波の流行が発生した20年4月頃には、発症2日前から周囲に感染させることや、無症状感染者でも感染拡大させることが明らかになったのです。

 このように、症状がまだ出てない感染者や無症状の感染者が感染源になると、症状がある人にマスクをしてもらう「せきエチケット」では感染対策が不十分になります。そこで、国民全員にマスクを着用してもらう「ユニバーサル・マスキング」という対策が取られました。この方法は、感染者がウイルスを周囲に飛散させない効果とともに、健康な人がウイルスを吸い込まない効果もありました。

 政府の基本的対処方針を見ると、20年5月4日の発表までは「せきエチケット」という言葉が頻回に使われていましたが、5月14日の発表からは「マスク着用」に置き換わっています。これ以来、私たちは感染対策としてマスク着用を実践してきました。

 ◇なぜ不要になったのか

 マスク着用は世界各国で実施されてきましたが、22年春以降、多くの国々がこの対策を緩和しています。日本でも23年3月から緩和するわけですが、その理由はどこにあるのでしょうか。

 新型コロナウイルスの感染力は、変異株の出現で流行当初よりも高くなっています。その一方で、ワクチン接種や感染により免疫を獲得した人が増えたため、新規感染者数は減り、感染しても重症化することは少なくなりました。こうした状況の変化で、マスクをしていなくても感染するリスクは低下し、もし感染しても軽症で回復するようになったのです。

 ただし、ここで重要な点が二つあります。一つは、新型コロナウイルスへの免疫が時間経過とともに弱くなっていくことです。つまり、定期的にワクチン接種を続けることが、今後も必要になるでしょう。もう一つは、高齢者や慢性疾患のある人は、たとえ免疫があっても重症化するリスクが高くなる点です。こうしたハイリスクの人にはマスク着用に関して特別な配慮を要するのです。

海外ではマスクを着用していない人も目立つ(英ロンドンの地下鉄)=AFP時事

海外ではマスクを着用していない人も目立つ(英ロンドンの地下鉄)=AFP時事

 ◇日本でマスク緩和が遅れた理由

 欧米諸国では22年春頃からマスク着用の緩和が進められてきましたが、日本ではなかなか緩和が進みませんでした。この一因にはマスク着用を以前から受け入れてきた国民性があるのでしょう。

 さらに、日本では新型コロナへの免疫獲得者が欧米に比べて少なく、緩和を積極的に行えなかったこともあります。新型コロナへの抵抗力にはワクチン接種だけでなく、感染により獲得した免疫の両方が関与します。日本ではワクチン接種率が21年夏から高くなりましたが、感染で免疫を獲得した人が増えたのは22年夏の第7波以降でした。欧米諸国ではこうした免疫獲得者が22年春頃までに、かなり多くなっていたため、早めにマスク緩和を開始できたのです。

 そして23年3月になり、ようやく日本でも免疫獲得者が一定レベルに達し、マスク緩和が実施できる状況になりました。

マスク着用の新たな指針を示す啓発チラシ(厚生労働省提供)

マスク着用の新たな指針を示す啓発チラシ(厚生労働省提供)

  ◇着用を推奨する場面

 政府は22年5月に屋外でのマスク着用は会話などがなければ必要ないとしていますが、今回の緩和では、屋内でも基本的には不要という見解を示しています。ただし、それを受け入れるか否かの判断は個人に任せるということになります。

 これに加えて、緩和後もマスク着用を推奨する人と場所を提示しています。着用を推奨する人には「症状がある人」と「高齢者や慢性疾患のある人」がいます。前者は基本的に自宅待機することを要請されますが、どうしても外出しなければならない場合には、マスクを着用する必要があります。後者は先に紹介したように、感染すると重症化を起こす可能性があるためで、混雑した場所に行くときなどはマスクをした方がいいでしょう。

 マスク着用を推奨する場所は「医療機関」や「高齢者施設」で、いずれも重症化リスクの高い人たちが滞在しており、その人たちに感染させる可能性があるためです。さらに、混雑した電車やバスなどに乗るときも、その車内で感染したり、感染させたりするため、着用を推奨しています。

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