「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

麻疹流行が拡大中
~海外と接点のある人はハイリスク~ 東京医科大特任教授・濱田篤郎【第3回】

 ◇接種は年齢も考えて

 こうした行動や生活上のリスクに加えて、対象者の年齢も重要な検討事項です。現在60歳以上の人は、過去に麻疹に感染している可能性もあり、その場合は再び感染することはありません。

 また、感染していなくても過去にワクチンを2回接種していれば、接種の必要はありません。日本では麻疹ワクチンの任意接種が1966年から始まり、1978年から定期接種(1~6歳時に接種)が開始されました。現在50歳以下の人は、多くがこの接種を受けていることになります。

 ただし、この頃の接種は1回のみで、その後、1回接種だけでは完全な予防効果が得られないことが明らかになりました。このため、2006年からは2回の定期接種(1歳時と小学校入学前)が始まります。2008年から5年間、中高生を対象に行われた接種(中学1年時か高校3年時)も2回目の接種という扱いでした。この結果、現在30歳未満の人はほとんどが2回接種を受けているとみられ、30歳以上を対象に麻疹ワクチンの接種を推奨してきました。

 ◇実は20代の感染者が多い

 ところが、23年や24年の日本での麻疹患者の年齢を見ると、20歳代がかなり多くなっています。

 23年は年間28人の患者が国内で確認されており、このうち9人が20歳代でした。また、先に紹介した24年に発生した患者についても、多くが20歳代と報告されています。現在20歳代の人は中学1年時か高校3年時に個別で接種を受ける機会がありましたが、連絡が行き渡っていなかったり、連絡があっても接種を忘れたりすることもあったのでしょう。このため、1回接種のまま現在に至っている人が少なくないようです。

 こうした状況から、20歳代でも2回接種の記録が無い人は、麻疹ワクチンの追加接種を受けることを推奨します。記録が無くても、血液検査麻疹の抗体を測定し、それが陽性であれば接種の必要はありません。

 麻疹は感染力の大変強いウイルスが原因であり、患者が1人発生すると周囲の多くの人々に感染が拡大します。また、重症化することも少なくありません。ご自身の健康のためだけでなく、周囲の人の健康を守るためにも、対象者はワクチン接種を受けていただきたいと思います。なお、麻疹ワクチンは一般の医療機関で接種を受けることができます。ただし、自費診療になるため、事前に料金や在庫を確認してから受診するようにしましょう。(了)

濱田特任教授

濱田特任教授


濱田 篤郎(はまだ・あつお)
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。
 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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