「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

秋の予防接種~今年は変更点が多い 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第9回】

 冬の流行に備えるため、10月から新型コロナインフルエンザ予防接種が始まります。新型コロナは高齢者を対象とした定期接種になるとともに、インフルエンザには経鼻ワクチンが加わります。今回は冬の感染症の流行予測と、秋から始まる予防接種について解説します。

 ◇インフル流行は元に戻るか

 新型コロナ発生後、日本ではインフルエンザの流行が2シーズン(2020~21年、21~22年冬)にわたり起こりませんでした。3シーズン目の22~23年冬は流行しましたが、患者数はあまり増えずに収束しました。そして、直近の23~24年は、23年9月ごろから患者数が増え始め、24年3月まで長期にわたる流行になったのです。

 では、次の24~25年の冬はどうなるでしょうか。24年9月20日時点で沖縄県のインフルエンザ患者数が増えていますが、全国的には増加が見られていません。また、今年のオーストラリアなど南半球の冬(6~8月)の流行を見ると、新型コロナ発生前の状況に戻っています。こうした情報から判断すると、日本でも次の冬はコロナ前の流行パターンに戻ると予測されます。

 ◇経鼻ワクチンの販売

 今年のインフルエンザワクチンの接種は10月から始まりますが、例年とは異なり2種類が流通します。一つは従来の注射用の不活化ワクチンで、もう一つは新しい経鼻用の生ワクチンです。

 経鼻用は米国で03年に承認され、現在では30カ国以上で使用されています。点鼻接種なので、インフルエンザウイルスが侵入する気道粘膜の免疫力が高まり、予防効果は注射用よりも強いと考えられています。副反応に関しても、注射ではないので接種時の痛みは、ほとんどありません。

 このようなメリットがあるため、経鼻用の接種を希望する人も多いと思いますが、対象年齢が2歳から18歳までに限定されています。海外では成人(49歳以下)にも使用されており、日本でも今後、対象年齢が拡大されていくでしょう。

 今年は経鼻用ワクチンの流通量がまだ少ない状況ですが、二つのワクチンが準備されている医療機関を18歳以下の人が受診すると、どちらかを選ぶ必要があります。なお、経鼻用は生ワクチンのため接種できない人がいるとともに、接種費用が注射用よりも若干高くなります。

 新型コロナは冬に再燃

新型コロナウイルスワクチンの接種風景

新型コロナウイルスワクチンの接種風景

 新型コロナの夏の流行は9月になり収束してきましたが、冬の到来とともに再燃すると予想されます。冬は呼吸器感染ウイルスが拡大しやすい環境のため、夏よりも患者数は増えるでしょう。現時点で流行株はオミクロン株のKP系統ですが、今のところ新たな変異株は出現しておらず、次の冬も同様な系統が流行する可能性が高いと考えます。

 こうした状況から、ある程度大きな流行は発生しますが、医療が逼迫(ひっぱく)するような事態にはならないでしょう。ただし、高齢者は重症化するリスクが高いので、十分な予防対策を取るとともに、ワクチンの追加接種を受けておくことが推奨されます。

 この追加接種が今年10月から始まる新型コロナワクチンの定期接種です。

 ◇定期接種対象は高齢者のみ

 今まで新型コロナワクチンの接種は、特例臨時接種という枠組みで国民全員を対象に無料で行われてきました。しかし、24年4月から定期接種という位置付けになり、高齢者を対象に有料で接種することになりました。有料と言っても、対象者には国や自治体から助成金が出るので、負担額は一部だけ、あるいは無料とする自治体もあるようです。

 接種の対象者は65歳以上の高齢者と、60~64歳で重篤な基礎疾患のある人です。今までは年齢に関係なく、基礎疾患のある人をハイリスク者としてワクチンの接種を推奨してきましたが、今度は高齢者のみが接種対象になります。これは、新型コロナの重症化が、高齢者に多く見られるようになってきたためです。

 一方、高齢者以外の方々については、任意接種として受けることができますが、原則として国や自治体からの助成金はありません。新型コロナワクチンの接種の実費は1回で1万5300円程度とされており、少なくともそれよりも高い値段になるでしょう。

 このように、今年の秋から、新型コロナワクチンの接種を受ける場合は、その効果や副反応とともに、費用についても考える必要があるのです。

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