こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第4回 遺伝性乳がん、検査で調べるリスク
カウンセリングへの目安と治療の流れは 東京慈恵会医科大学の現場から

 ◇疑いあれば18歳から自己触診を

 遺伝性乳がんの発症リスクが疑われたり、実際に原因遺伝子の病的バリアントがあると分かったりした人は、乳がんの早期発見のために、乳房を自分で触ってしこりがないかを確認する「自己触診」を習慣付けるとともに、積極的に乳がん検診を受けることが大切です。

 住民検診などの対策型検診では、40歳から2年に1回、マンモグラフィー(乳房X線検査)による乳がん検診を受けるよう推奨されています。一方で、BRCA遺伝子の病的バリアントを持つ人は20歳代から乳がん発症を認め、30~50歳が発症のピークだったとの報告もあります。

 NCCNガイドインは、HBOCに対応した検診サーベイランスとして、18歳から乳房の自己触診を始め、25歳からは年1回、精度の高い造影MRI(磁気共鳴画像装置)の検査を受けるよう推奨。30歳からは年1回、造影MRI検査マンモグラフィーを併用してチェックするよう勧めると同時に、RRMについて専門家と話し合う必要があるとしています。

 さらに卵巣・卵管がんについては、有効な検診法がないなど早期発見が困難なため、35歳以上で妊娠・出産を希望しない人には、リスク低減のために卵巣・卵管切除術を強く推奨すると、国内外のガイドラインに記載されています。手術を望まない女性には、経膣超音波検査(エコー検査)腫瘍マーカーである「血清CA125」の検査を定期的に行って、できる限り早期発見に努めることになります。

 ◇進行・再発乳がんには分子標的療法も

 最後に、先ほど少し触れましたが、進行・再発乳がんのHBOC患者への分子標的療法についても説明しておきたいと思います。

 一般に乳がん治療は、手術(RRMを含む)、薬物療法(化学療法、分子標的療法、ホルモン療法)、放射線療法を状況に応じて行っていきますが、進行・再発乳がんのHBOC患者に対しては、一定の条件の下、分子標的治療薬の一種「PARP(パープ)阻害薬」である「オラパリブ」を投与することがあります。

 PARPとは「ポリADPリボースポリメラーゼ」というタンパク(酵素)のこと。遺伝子はさまざまな刺激によって傷つきますが、PARPタンパクは、本来がん抑制遺伝子であるBRCA遺伝子がつくるタンパク(酵素)と同様に、傷ついた遺伝子を修復する働きを持ちます。

 HBOCの乳がん細胞では、BRCA遺伝子に病的バリアントが生じた結果、BRCAタンパクが働いていないので、PARPタンパクの働きだけで遺伝子を修復せざるを得ません。そこへPARPタンパクの働きを阻害する薬を投与すると、乳がん細胞は「細胞死」を起こし、腫瘍が縮小したり消失したりします。乳がん細胞以外の細胞では、BRCAタンパクが働いているので、薬の影響を受けません。

 オリンピアド試験と呼ばれる国際的な臨床試験では、BRCA遺伝子に病的バリアントがあって化学療法の治療歴があり、かつ、がん増殖に関わる「HER2(ハーツー)タンパク」が陰性である進行・再発乳がんの患者を対象に、オラパリブを投与しました。その結果、腫瘍が増殖せずに患者が生きている「無増悪生存期間(中央値)」は、他の化学療法の薬を投与したグループとの比較で4・2カ月から7・0カ月まで延びました。腫瘍の増殖抑制などの効果があった「奏効率」も28・8%から59・9%に改善しました。

 現在、この薬剤を使っての乳がんの治療は、手術後の再発を防ぐ補助療法としての有効性を確かめるための臨床試験も行われています。(東京慈恵会医科大学附属病院乳腺・甲状腺・内分泌外科 野木裕子)

  • 1
  • 2

こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情