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地域で暮らす権利 第9回

 ◇成年後見とのコラボも

 県営住宅で暮らす40代の男性患者の訪問には、看護師と精神保健福祉士に加え、成年後見制度の保佐人が合流した。保佐人は患者の金銭管理などを行っている。

 この日の話題の一つは、しょうゆをこぼしたこたつ布団のクリーニングについて。クリーニングの方法を話し合い、保佐人がその代金を振り込むことになった。

 ◇夢の実現へ

 50代の男性患者は、グループホームで暮らしながら「就労継続支援B型」の作業所に通っていた。

 夢は県営住宅に引っ越すことだった。精神保健福祉士と心理療法士の応援もあり、数カ月前にその夢が実現した。

 「自分だけの時間が増え、ゆっくりできますね」と、一人暮らしの良さをしみじみと語った。

 30代の男性患者の夢は、お金をためて天体望遠鏡を買うことだ。男性患者が暮らすアパートには、図書館で借りた星座の本が置いてあった。看護師と作業療法士が図書館の利用をサポートした。

 「人は成長できるのだと確信できるようになりました。その可能性に病棟ではなかなか気付くことができません」と、チームリーダーの看護師は話す。

 ◇限られた診療報酬の中で

 在宅復帰支援チームの専任は看護師2人だけだ。他のメンバーは、病棟勤務の合間を縫ってチームに加わる。重度精神科医療において積極的な訪問活動に算定できる診療報酬は、あまりにも限られている。

 「国は精神科のベッド(病床)数削減を進めています。でも、単にベッドを減らすだけでは長期入院患者の行き先はありません」と、精神科医は苦言を呈した。彼は「限られた診療報酬で退院復帰を支援できる患者は今のところ、ごくわずかです。経営面から見ると、在宅復帰支援に注力することは明らかにマイナスでしょう」と厳しい状況を認めつつ、「それでも、重い精神障害を抱える人たちの夢の実現を支える支援への挑戦を何とか続けたいですね」と、チームの意義を強調した。(了)

 佐賀由彦(さが・よしひこ)
 1954年大分県別府市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。フリーライター・映像クリエーター。主に、医療・介護専門誌や単行本の編集・執筆、研修用映像の脚本・演出・プロデュースを行ってきた。全国の医療・介護の現場を回り、インタビューを重ねながら、当事者たちの喜びや苦悩を含めた医療や介護の生々しい現状とあるべき姿を文章や映像でつづり続けている。中でも自宅で暮らす要介護高齢者と、それを支える人たちのインタビューは1000人を超える。

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