こちら診察室 めまい・耳鳴り

脳が原因のめまいもある
~確認すべき危険な兆候~ 第5回

 めまいの重要な原因の一つに脳が原因となる脳血管障害があります。脳血管障害と聞くと大変驚かれるでしょうし、「怖い」と思われるでしょうが、脳血管障害によるめまいが原因で救急受診や搬送されることは少なくありません。

 実際、夜中や明け方に、天井がグルグル回るような回転性めまい発作が起きて、嘔吐(おうと)などがあると脳が心配になります。このような状態に陥った場合はまず、めまい以外に体にしびれや力が入らないなどのまひがないか、これまで経験したことのない頭痛があるのかなどを確認してください。自分では分かりにくいかもしれませんが、言葉がはっきりしないなど意識障害の兆候はないか、顔面や両手、両足の感覚や動きに左右の差がないかなども確認してください。

複雑に入り組んだ内耳動脈

複雑に入り組んだ内耳動脈

 ◇救急車を呼ぶ

 このような兆候が少しでもあれば、すぐに救急車を呼びましょう。病院へ運ばれると、脳神経外科や脳神経内科などでまず画像検査であるCTやMRIなどを行います。そこで脳出血脳梗塞など、脳の血管に異常がないことが確認されると、めまいの発作を軽減するための点滴をするか、少し休ませてから自宅に帰します。その段階で医者から「翌日、耳鼻科に行ってください」などと言われることが多くあります。脳に異常がないとなれば、耳が原因で起こるめまいが多いからです。耳が原因のめまいの多くは前回触れた、良性発作性頭位めまい症やメニエール病、前庭神経炎です。

 ◇画像検査を考える

 ここで画像検査の目的と意味を考えてみましょう。基本的には脳梗塞脳出血動脈瘤(りゅう)、脳腫瘍、血管奇形、(動静脈奇形)、椎骨動脈解離、感染症脳炎)などがあるかないかについて、検査することになります。CTでは梗塞はほぼ分かりませんから、出血の有無をはっきりさせます。脳梗塞はMRIでないと分かりません。性能の良いMRIであれば、発症直後の脳梗塞を診断できる可能性もあるのですが、数日後でないと画像に出ない場合もあります。また、MRIは時間がかかるため、緊急時には適さないこともあります。

 一口に脳血管障害といっても、最も多い大脳梗塞めまいには関係してきません。救急時、めまいに関係する脳は小脳や脳幹ということになります。この場所に起きる出血は症状が多彩で画像検査で分かります。めまいの脳血管障害で重要でありながら分かりづらいのは、小脳や脳幹の小梗塞です。ここに分布している椎骨脳底動脈の異常が最大のポイントとなります。この動脈の枝は内耳動脈です。内耳動脈に梗塞などの影響が出ると、突発性難聴も併発することになります。いずれにせよ、出血は分かりやすいのですが、梗塞、特に微小梗塞はかなり分かりづらいのです。

 ◇椎骨脳底動脈循環不全

 このほか、椎骨脳底動脈循環不全という病気があります。脳底動脈は、心臓を出て頸椎(けいつい)の骨の中の左右を上行し、途中から1本になります。小脳(平衡感覚や手足をスムーズに動かせることなどをつかさどる)、脳幹(生命のコントロールセンターで睡眠、呼吸、嚥下などをつかさどる)に血液を供給しています。この場所は画像検査で異常がほとんど見つかりません。だからといって、脳に問題がないとは言えないのです。夜や明け方など血圧が下がっているときだったり、首を上下に曲げて同じ位置にしていたりすると起きやすくなります。回転性めまいが起きますが、耳鳴りや難聴、頭痛などは起こりません。嘔吐があるかどうかは循環不全の程度によります。糖尿病、高コレステロール、高脂血症などのメタボリックシンドロームがあると、さらに起こりやすくなります。

 ◇「めまい相談医」の出番も

 話を元に戻しましょう。めまいの救急で画像検査に異常がなく、自宅に帰り、そのまま症状が落ち着けばよいのですが、翌日から何となくフラフラする、フワフワするなどといった症状が残る場合は注意が必要です。

 その時は、「めまい相談医(日本めまい平衡医学会のHPで分かります)」のいる耳鼻咽喉科で精査する必要があります。フレンツェル眼鏡という凸レンズの眼鏡で目の動きを見たり、頸椎のレントゲン検査や小脳、脳幹の機能検査、聴力検査、自律神経の検査、血液検査などをしたりします。直立した状態で重心動揺を測る検査や椎骨動脈のエコー検査などを適宜行う場合もあります。

 これらの検査で脳血管による異常が分かった場合、後遺症としてフワフワめまいが起こることがあるのです。めまい症状がいったん治まって、その後回転性めまいが反復することも少なくありません。長引く症状や反復する場合は注意が必要で、経過をしっかり観察してもらいましょう。

 ◇カクテル療法

 治療は生活習慣の改善に始まり、まず薬物療法を行います。背景因子である高血圧、低血圧動脈硬化症、不眠、血行不良などに対し薬を選択していく「カクテル療法」です。それでも軽快しない場合は、めまいのリハビリテーションを行うことになります。リハビリテーションは自宅でできる体操のようなものから医療機関で行うものまでさまざまです。

 次回は、このめまいに対するリハビリテーションと生活習慣の改善について具体的にお話しします。

 坂田英明(さかた・ひであき)
 川越耳科学クリニック院長、埼玉医科大客員教授。元目白大学教授。日本耳鼻咽喉学会専門医、日本聴覚医学会代議員。日本小児耳鼻咽喉学会評議員。1988年埼玉医科大卒、91年帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手、2005年目白大教授、15年より現職。小児難聴や耳鳴りなどの治療に積極的に取り組み、著書多数。近著に「フワフワするめまい食事でよくなる」(マキノ出版)。

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