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第9回 放射線療法で乳房周辺の再発予防
温存術後は全員、全切除後はリスク高い人に 東京慈恵会医科大の現場から

 がんの放射線療法は、体の中の特定の場所に放射線を照射して腫瘍を消失・縮小させる治療です。目的としては、大きく分けて根治照射、予防照射、緩和照射の三つがあります。乳がんに対する放射線治療で最も多く行われているのは、手術の後に行う予防照射ですので、今回はこの点に絞って説明していきます。

 一般に、放射線治療は1日1回、週5回のペースで平日に行います。1回の治療は15分程度で終わります。

 放射線は毎回、同じ位置に正確に照射する必要があります。そのための目印として、体の上に直接線を描き、毎回の放射線治療の基準としています。線を引くのに使う色素は、色移りしやすいことが多いため、治療を受ける際には下着や肌着などの衣類の選択には気を付けてください。

 乳がん手術後に行う放射線治療では、治療後に体から放射線を発することはありません。ですから、小さいお子さんと触れ合っても大丈夫です。

 ただし、放射線治療を受けたことのある場所にもう一度放射線治療を行うことは原則としてできません。照射後に重い障害を引き起こす恐れがあるためです。以前に放射線治療を受けた人は、当時の治療範囲の確認が必要なので、担当の医師に伝えてください。

 ◇乳房全体を照射、病状次第で範囲拡大―温存術

 手術後の予防照射は、手術で取り切れなかった可能性のある目に見えないがん細胞を死滅させ、再発を防ぐために行います。

 腫瘍を中心に乳房を部分切除する「乳房温存手術」の後は、原則として放射線治療を実施します。これは、放射線治療によって乳房の中にがんが再発するリスクを下げるだけでなく、生存率の改善にもつながるというデータがあるためです。

 照射する範囲は手術した側の乳房全体です。それに加えて、手術した側の鎖骨上窩(さこつじょうか=首の付け根で鎖骨の上の部分)リンパ節にも照射することがあります。

 鎖骨上窩リンパ節を照射範囲に含めるか否かを決める最も重要な要素は、脇の下の腋窩(えきか)リンパ節へのがん細胞の転移の個数です。転移が4個以上であれば、鎖骨上窩リンパ節も照射することが勧められています。転移が1個から3個の場合は、腫瘍の大きさなどその他の要素も合わせて照射するかを決め、転移がない場合は通常、照射範囲に含めません。

 ◇大半が鎖骨上窩リンパ節まで照射―全切除術

 乳房を腫瘍ごと全て切除する手術(乳房全切除術)後の放射線治療は全員に勧められているわけではありません。この点は乳房温存手術の後と異なります。対象となるのは、腫瘍のサイズが大きかったり、腋窩リンパ節に転移があったりして、再発のリスクが高いと想定される場合です。

 照射範囲は、胸壁(手術を行った胸の範囲)と鎖骨上窩リンパ節というケースが大半です。ただし、状況に応じて、照射範囲を胸壁のみに縮小する、反対に照射範囲を拡大して胸骨のすぐそばにある内胸リンパ節も加える、といった調整を行うことがあり、再発のリスクに応じて検討した上で方針を決めていきます。

 乳がん手術後の放射線治療では、温存手術後、全切除術後のいずれも、合計45~50グレイ(Gy=人や物質が浴びた放射線量の単位)の放射線量を約5週間かけて照射するのが一般的です。

 再発リスクによっては、腫瘍があった範囲に照射範囲を縮小して10~16グレイ程度の追加照射(ブースト照射)をすることがあります。放射線治療の期間は1~2週間程度長くなります。

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