こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線

日本における不登校の歴史 【第2回】

 ◇2010年代~現在:不登校の捉え方の変化

 2010年代に入ると、不登校に対する社会の理解はさらに深まり、多様な学び方を認める方向へと大きくかじを切ります。

ICTの発展に伴い、オンライン学習の普及が進む(イメージ図)

ICTの発展に伴い、オンライン学習の普及が進む(イメージ図)

 16年12月、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(通称:教育機会確保法)が成立しました。この法律は、不登校の児童生徒の教育を受ける権利を保障し、フリースクールなどの民間施設での学習を義務教育の一種として認める画期的なものでした。これにより、不登校の子どもたちの学びの選択肢が法的に保障されることとなりました。

 17年2月には、文部科学省が「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」を策定。この指針では、不登校児童生徒の社会的自立を目指し、個々の状況に応じた支援を行うことが明確化されました。

 19年10月25日には、文部科学省が「不登校児童生徒への支援の在り方について」の通知を改訂しました。この改訂では、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があることが強調されました。また、不登校児童生徒の支援について、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、多様な教育機会の確保が重要であることが明記されました。

 この時期、ICTの発展に伴い、オンライン学習の普及も進みました。特に、20年の新型コロナウイルス感染症の流行を契機にオンライン学習の環境整備が急速に進み、不登校児童生徒の学習支援にも大きな影響を与えました。

 さらに、不登校経験者の社会での活躍や、不登校を経験したことをポジティブに捉える声も増えてきました。これらの声は、不登校を単なる「問題」としてではなく、多様な生き方・学び方の一つとして捉える視点を社会に広げることに貢献しました。

 このように、2010年代から現在にかけて、不登校に対する社会の理解は大きく変化しました。「学校復帰」を絶対的な目標とするのではなく、個々の子どもの状況に応じた多様な学びや成長の形を認め、支援していく方向性が強まっています。不登校は「問題行動」ではなく、子どもたちの多様性の一つの形として捉えられるようになってきたのです。

飯島慶郎医師

飯島慶郎医師

 飯島慶郎(いいじま・よしろう) 精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。島根大学医学部附属病院にも勤務。

 参考文献

 1. 保坂亨 (2000)『学校を欠席する子どもたち』東京大学出版会

 2. 奥地圭子 (2005)『不登校という生き方』NHK出版

 3. 文部科学省 (2017)「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」

   https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1384370.html

 4. 文部科学省 (2019)「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」

   https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422155.html


【関連記事】


こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線