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不登校の原因・きっかけ ~最新統計から見えてくるもの~ 【第3回】

 ◇精神疾患との関連性

 ここで指摘したい点は、無気力、不安・抑うつ、体調不良、睡眠の問題といった訴えが背景に精神疾患の存在を示唆する可能性があるということです。これらを「症状」と解釈すれば、深刻な精神的問題の表れであると捉えることができます。

 例えば、無気力はうつ病の主要な症状の一つです。精神医学の分野で広く使用されている診断基準のマニュアルであるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、抑うつ気分、喜びの減退、不眠または過眠、疲れやすさ、気力の減退がうつ病の症状として挙げられており、通常は不安も伴います[3]。

 また、過度な不安は、全般性不安障害、社交不安障害、分離不安障害、パニック障害などの不安障害の中核的な症状です[3]。体調不良の訴えも、精神的なストレスや不安、うつ状態が身体症状として表れる「身体化」の可能性があります。身体化とは、精神的な問題が身体的な症状として表れる現象を指します。

 ◇精神疾患の好発年齢

 一般の方にはほとんど知られていませんが、精神疾患の発症には心理社会的な「きっかけ」が絶対に存在するわけではありません。一般の身体の病気と同じく、明確な理由なく自然に発症することもあります。そして統計的にも、実は多くの精神疾患は若くして発症することが分かってきています。

 以下は、WHOのホームページからの抜粋です[4]。

 ・世界では、10~19歳の7人に1人が精神障害を経験しており、この年齢層における世界の疾病負担の13%を占めています。

 ・うつ病、不安、行動障害は、青少年の病気や障害の主な原因の一つです。

 ・世界的には、10~19歳の7人に1人(14%)が精神疾患を経験していると推定されていますが、その多くは認識されず、治療もされていません。

 ・思春期の精神衛生状態に対処しないと、成人期まで影響が及び、身体的および精神的健康が損なわれ、成人として充実した生活を送る機会が制限されます。

 また、Jones PB. (2013)の報告によると、不安障害、気分障害(うつ病、双極性障害)、統合失調症などを含む何らかの精神疾患は、生涯発症全体から見ると、7歳までに25%、14歳までに50%、24歳までに75%が発症すると言われています[5]。

 不登校関連研究による裏付け

 これまで見てきた統計データや症状の分析から、不登校の背景に精神疾患が存在する可能性が示唆されました。この仮説は、実際の臨床研究や疫学調査によってさらに裏付けられます。以下に、国内外の研究結果を紹介し、不登校と精神疾患との関連性をより具体的に示していきます。

 日本における不登校と精神疾患の関係に関するデータは限られていますが、国立国際医療研究センター国府台病院の研究では、不登校児童の多くが広汎性発達障害(PDD)(≒自閉スペクトラム症)、不安障害、注意欠如・多動性障害(ADHD)、適応障害、気分障害などの診断を受けています。特に不安障害、気分障害≒うつ病、適応障害との関連が強く、不安障害と診断された児童生徒の66%、同じく気分障害、適応障害ではそれぞれの83%、PDDの26%が不登校を呈していました[6]。

 国際的な研究でも同様の傾向が見られます。例えば、Bernstein(1991)やMcShane et al.(2001)の研究では、不登校の若者の約50%が不安障害の診断基準を満たしていました[7][8]。また、Bools et al.(1990)の研究では、深刻な学校出席問題を持つ100人の子供の半数が精神障害の基準を満たしていたことが示されています[9]。

 さらに、Berg et al.(1993)の研究では、1学期の40%以上を欠席した子供の半数が精神障害の基準を満たしていました[10]。McShane et al.(2001)の研究でも、受診した不登校者の約50%が抑うつ障害と診断されています[8]。

 インドのAsha Hospitalで行われた研究でも、不登校を主訴として来院した児童生徒の91%に何らかの精神疾患が見られ、うつ病性障害が36.4%、不安障害が18.2%、行為障害が15.1%、残りは多動性障害、精神遅滞、双極性障害であったと報告されています(Karthika & Devi, 2020)[11]。

 特に上記のAsha Hospitalでの研究結果は、筆者の出雲いいじまクリニックのデータとも一致しています。当院を不登校を主訴に受診した児童生徒の98.5%に何らかの精神疾患や発達障害が見られ、うち33.1%がうつ病、29.2%が不安障害、さらに背景にグレーゾーンも含めた発達障害傾向が52%という結果でした[12] 

 ◇今後の課題

 最新の統計データや研究結果から、不登校の背景には単なる「学校に行きたくない」という問題だけでなく、うつ病や不安障害、発達障害などの精神疾患が隠れている可能性が高いことが指摘できます。そして、それを裏付けるように、一般に不登校の主要因と思われがちな「いじめ」は、実際には他の要因と比べて相対的にかなり低い割合となっています[1]。

 不登校の問題に取り組む際には、表面的な要因だけでなく、背景にある精神医学的な問題にも目を向ける必要があります。また、教師と児童生徒・保護者の間で精神衛生やいじめに関する認識の差があることも明らかになりました[2]。この差を埋めていくこと、そして学校が生徒の精神状態をより適切に把握し、共有できるシステムを構築することが不登校問題の解決に向けた重要な課題と言えるでしょう。

 不登校の問題は、単なる学校教育の問題ではなく、子どもたちのメンタルヘルス全体に関わる重要な課題です。無気力、不安・抑うつ、体調不良、睡眠の問題といった症状が不登校に伴って見られる場合、それらが精神疾患の表れである可能性を考慮し、適切な専門家による評価と支援を受けることが重要です。今後は、学校、家庭、医療機関が密接に連携し、子どもたちの心身の健康を総合的に支援していく体制づくりが求められるでしょう。特に、医療の側には圧倒的なリソース不足が叫ばれている児童精神科領域の体制の早急な拡充が求められることを指摘しておきます。(了)

飯島慶郎医師

飯島慶郎医師

 飯島慶郎(いいじま・よしろう) 精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。島根大学医学部附属病院にも勤務。

参考文献

[1] 文部科学省. (2023). 令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について.

[2] 公益社団法人 子どもの発達科学研究所. (2024). 不登校の要因分析に関する調査研究.

[3] American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.).

[4] World Health Organization. (2021). Mental health of adolescents. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/adolescent-mental-health

[5] Jones, P. B. (2013). Adult mental health disorders and their age at onset. British Journal of Psychiatry, 202(s54), s5-s10.

[6] 渡部京太. (2011). 不安障害 不登校ひきこもりとの関連を中心に. 小児科臨床, 64(5), 871-879.

[7] Bernstein, G. A. (1991). Comorbidity and severity of anxiety and depressive disorders in a clinic sample. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 30(1), 43-50.

[8] McShane, G., Walter, G., & Rey, J. M. (2001). Characteristics of adolescents with school refusal. Australian and New Zealand Journal of Psychiatry, 35(6), 822-826.

[9] Bools, C., Foster, J., Brown, I., & Berg, I. (1990). The identification of psychiatric disorders in children who fail to attend school: A cluster analysis of a non-clinical population. Psychological Medicine, 20(1), 171-181.

[10] Berg, I., Butler, A., Franklin, J., Hayes, H., Lucas, C., & Sims, R. (1993). DSM-III-R disorders, social factors and management of school attendance problems in the normal population. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 34(7), 1187-1203.

[11] Karthika, G., & Devi, M. G. (2020). School refusal - Psychosocial distress or Psychiatric disorder? Telangana Journal of Psychiatry, 6(1), 14-18.

[12] 飯島慶郎. (2024). 出雲いいじまクリニック内部データ. 未公刊.


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