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老視矯正レンズの功罪 【第5回】
③老眼治療の手術にリスク
最近は、白内障ではなく老眼を治すために老視矯正レンズを入れる施設が散見されます。SNSを使用した広告などで目にする機会があるかもしれません。確かに、手術をすれば老眼が治る可能性はあります。
しかし、白内障をほとんど発症していない水晶体は、いかに優れた眼内レンズよりもコントラストが良いという点に留意すべきです。つまり、手術をすればコントラストが低下してしまう恐れが強いのです。手術をしてしまった後、「老眼は治ったけれど、すっきり見えなくなってしまった」「眼鏡やコンタクトレンズで対応しておけばよかった」とならないように、眼鏡やコンタクトを使えばはっきり見える目を手術するリスクを十分に考えてください。
④ピント合う幅広げる手法も
費用の高さなどから老視矯正レンズの選択は困難であるものの、できれば眼鏡への依存度を減らしたいと考える方もいるでしょう。その場合、片眼は遠方、もう一方は近くが見えるように眼内レンズの度数を調整する手法があります。モノビジョン法といい、上手に使いこなせれば間違いなく遠くも近くも見えます。
この方法の問題点は、両眼ともピントが合う距離がなくなることです。その結果、距離感や物・空間の立体感を把握できなくなり、階段や道の段差が分かりにくく歩きづらい、物を手に取ろうと思ってもつかみにくい、などの問題が生じます。不便を解消するには左右で度数の大きく異なる眼鏡をしたり、コンタクトレンズをしたりといった対策が必要になってしまうので、もともと左右の目に度数の差がある方以外は選択を避けるのが無難です。
ただし、左右で少しだけピントの合う距離を変えるマイクロモノビジョン法は、単純にピントの合う範囲を広げることが可能です。単焦点レンズを選択する場合には、焦点距離の設定には十分注意しましょう。
老視矯正レンズの選択は、個人のライフスタイル、視力に対する期待、専門家との十分な相談が鍵となります。手術前にこれらの特徴と可能性を十分に理解することが満足度の高い結果につながるでしょう。(了)

渡邊敬三院長
渡邊敬三(わたなべ・けいぞう)
近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、大阪府和泉市の府中病院(現府中アイセンター)に勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科で医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。2016年に大阪府熊取町の南大阪アイクリニック院長に就き、多数の白内障手術を手掛けている。じぇう
診療の傍ら、オウンドメディア「白内障LAB」やYOUTUBEチャンネルで白内障や白内障手術の情報を発信している。
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(2025/04/01 05:00)
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