こちら診察室 白内障A to Z
考えてほしい視力矯正手術のデメリット
~白内障手術に備えて~ 【第6回】
◇安全性評価まだ、実施判断慎重に
さて、本題に入ります。
まず、レーシック手術後の白内障手術です。レーシック後の目の最も大きな問題に角膜高次収差の増加によって老視矯正レンズが選択しにくい、乱視矯正レンズの効果が出にくいというものがあります。基本的にこの問題はまだ解決していませんが、眼球全体の収差を取り除く器械が販売され始めており、解決への期待が持てます。
もう一つは屈折精度です。これは後の連載で詳述しますが、すでに克服された問題だと認識しています。当院ではレーシック後の白内障手術を数多く行っていますが、角膜フラップに影響を及ぼさないよう気を付ける必要はあるものの、技術的には通常の白内障手術との違いはなく、屈折精度はレーシックをしていない方と同等の結果が出ています。
ではICL挿入後の白内障手術はどうでしょうか。通常の白内障手術とは違いがありますが、現在までに術後視力に関する報告はある(文献5)ものの、安全性に関する評価が行われた大規模研究は確認できません。小数例の報告を基に安全であると結論付けるよりも、想像力を膨らませ、起こり得る危険性について考えてみることが必要です。
最も問題となるのは、白内障の進行に伴い前房深度が浅くなったり、虹彩とICL、あるいはICLと水晶体に癒着または持続的接触があったりした場合です。白内障手術は本来、虹彩に触らずに実施することが必須です。癒着などがあった場合には虹彩を触らなければならず、術後の虹彩の動きに影響する場合があります。
目の中に入ってくる光の量を調整する虹彩にダメージが及んだ場合、コントラストの低下や焦点深度が浅くなるなどの問題が生じる可能性があります。ICLと水晶体が接触あるいは癒着してしまった場合には、ホール部を通じた房水循環が保てなくなる恐れも考えられます。また、屈折精度にも関わりかねず(文献5)、今後のさらなる報告を待つべきではないでしょうか。
ここまで、レーシック、ICL両手術が白内障手術に及ぼす影響について伝えました。長期的影響については個人的見解にすぎず、すでに手術を受けた方も含め、10年後、20年後に大きな問題とならないことを願っています。
「眼鏡やコンタクトレンズが面倒くさい」「手術をしてしまった方がコスパが良い」など、皆さんには手術を受ける理由がそれぞれにありますが、20~30代を楽に過ごせる代わりに「もしかしたら40~50代の働き盛りに、目のトラブルで仕事に支障が出るかもしれない」という視点も持ってください。さまざまな観点から、施術をする必要が本当にあるのかを考えましょう。(了)

渡邊敬三院長
渡邊敬三(わたなべ・けいぞう)
近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、大阪府和泉市の府中病院(現府中アイセンター)に勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科で医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。2016年に大阪府熊取町の南大阪アイクリニック院長に就き、多数の白内障手術を手掛けている。
診療の傍ら、オウンドメディア「白内障LAB」やYOUTUBEチャンネルで白内障や白内障手術の情報を発信している。
【注】
文献1:Gao R et al. Am J Ophthalmol. 2017
文献2:Sánchez-Ventosa Á et al. J Cataract Refract Surg. 2024
文献3:Alfonso-Bartolozzi B et al. J Cataract Refract Surg. 2024
文献4:Abing AA et al. Curr Opin Ophthalmol. 2024
文献5:Del Risco et al. Clin Med. 2024
- 1
- 2
(2025/04/15 05:00)
【関連記事】