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不登校と不安障害の関連性~早期発見と診断がカギ~ 【第8回】

 ◇不安障害の早期発見と診断

 不安障害は早期に治療を始めることで良い治療効果が期待できます。ただし、子どもの不安は成長過程で自然に表れることも多く、どの程度の不安から治療が必要になるのか、判断が難しい面があります。ここでは、不安障害を早期に発見するためのサインや、診断までの流れについて見ていきましょう。

 まず、不安障害に気付くきっかけとなる行動面の変化があります。例えば、それまで楽しんでいた部活動や習い事を突然やめたがるようになることです。また、友達からの誘いを断り続けたり、人との交流を避けたりする傾向が強まることもよく見られます。さらに、完璧主義的な傾向が強まり、「間違えたらどうしよう」という思いから課題に手がつけられなくなったり、特定の場所や状況を避けようとしたりする様子も特徴的なサインです。

 感情面では、イライラが増えたり、攻撃的な態度が目立つようになったりすることもあります。一見すると反抗的な態度のように見えるこうした行動も、実は不安への対処として表れている可能性があります。特に思春期の子どもたちは、不安な気持ちを直接表現せず、攻撃的な行動として表すことが少なくありません。

 体の不調も重要なサインとなります。不安障害の子どもの多くは、頭痛や腹痛、吐き気といった体の不調を訴えて病院を受診することが知られています。特に月曜日の朝や学校行事の前日など、不安を感じやすい場面でこうした症状が出やすいのが特徴です。また、休日や長期休暇中にはこれらの症状が和らぐ傾向にあることも、不安障害を疑うポイントとなります。

 不安障害が疑われる場合の診断は、段階を追って慎重に進められます。まず最初に、どんな症状がどの程度あるのか、それがどういう場面で起きやすいのか、日常生活にどのような影響があるのかを確認します。この際、子どもの年齢や発達段階によって、不安の表し方が異なることにも注意を払います。

不安障害が疑われる場合の診断は、家庭や学校の様子などさまざまな角度から情報を集めることが重要(イメージ)

不安障害が疑われる場合の診断は、家庭や学校の様子などさまざまな角度から情報を集めることが重要(イメージ)

 次に、さまざまな角度から情報を集めていきます。子ども本人からの話を聞くことはもちろん、家庭での様子を保護者から、学校での様子を教師から聞くなど、複数の視点からの情報が重要です。特に、家庭と学校では子どもの様子が大きく異なることも多いため、両方の場面での情報を総合的に見ていく必要があります。

 子どもの発達段階への配慮も欠かせません。幼い子どもは自分の不安な気持ちを言葉でうまく表現できないことが多く、泣いたり、かんしゃくを起こしたり、体の不調を訴えたりすることで気持ちを表現します。そのため、年齢に合わせた適切な方法で評価を行うことが大切です。

 ◇専門家が総合判断

 最終的な診断では、専門家が総合的な評価を行います。症状の程度、発達段階との関係、他の病気の有無、家族の病歴、環境の影響などを総合的に判断します。このような丁寧な診断の過程を経ることで、より適切な治療方針を立てることができます。

 不安障害の早期発見と適切な診断が重要なのには幾つかの理由があります。治療効果が高まることはもちろん、学業や友人関係の発達への影響を最小限に抑えることができます。また、不登校やうつ状態といった二次的な問題を防ぐことも可能です。さらに、家族全体への支援を早い段階から始められるという利点もあります。

 特に不登校との関係では、不安障害を早期に発見することで、不登校の予防や早めの対応が可能になります。不安障害はさまざまな形で不登校のリスクを高めるため、早い段階での気付きと適切な対応が大切です。このように、不安障害の早期発見と適切な診断・治療は不登校の問題の解決の一助となる可能性を大いに秘めているのです。(了)

飯島慶郎医師

飯島慶郎医師

 飯島慶郎(いいじま・よしろう) 精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。島根大学医学部附属病院にも勤務。

[1] Anxiety disorders in children and adolescents: Epidemiology, pathogenesis, clinical manifestations, and course (UpToDate)

[2] Finning et al.: Review: The association between anxiety and poor attendance at school – a systematic review, 2019.


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