こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第1回 女性の11人に1人が乳がんに
病気の特徴、治療選択の流れを知る 東京慈恵会医科大の現場から

 ◇手術、薬物療法、放射線療法を状況に応じて

 治療は①手術②化学療法③分子標的療法④ホルモン療法(内分泌療法)⑤放射線療法―といった多角的な方法を状況に応じて、基本的には組み合わせて行っていきます。②③④はいずれも薬物療法で、②は従来型の抗がん剤、③はがん増殖や免疫に関わるタンパク質などを狙い撃ちする分子標的薬、④は女性ホルモンの分泌や働きを阻害するホルモン療法薬を使用します。

  私たちの病院では乳腺外科などの医師だけでなく、看護師や薬剤師、理学療法士といった多職種のスタッフによる検討会(キャンサーボードなど)を開き、それぞれの患者さんにとって最適な治療が選択されるよう努めています。

 治療選択に当たっては、まず各種画像検査によって、がんの局所の広がりや遠隔転移の有無が検討されます。肺や肝臓などへの転移がある場合はいわゆるステージⅣの状態で、手術療法は第一選択とならず、病勢コントロールを目的とした抗がん剤を含めた薬物療法が選択されます。

 これに対し、転移がない局所進行あるいは早期乳がんの場合はステージ0~Ⅲの状態で、腫瘍の完全切除が期待できるため、手術療法が選択されます。

 ◇検査で調べた「がんの性格」も参考に

 ただし、各種検査の結果、乳がんの性格から再発などのリスクが高い場合や薬物療法が効果的と考えられる場合には、手術に先駆けて薬物療法が選択されることがあります。手術後も、切除したがん組織の検体から生物学的特性を調べることにより、術後の薬物療法が適宜選択されます。

 生物学的特性を示す主な指標は、乳がんの組織に▽女性ホルモンと結び付く受容体があるか(ホルモン受容体陽性か)▽細胞の増殖調節に関わる「HER(ヒト表皮成長因子受容体)2(ハーツー)」というタンパクが過剰発現しているか(HER2陽性か)▽細胞の分裂しやすさ(増殖能力)の目安となる「ki67」というタンパクの数値が高いか―の3点です。

 それらの指標の評価から、乳がんを「ルミナル(ホルモン受容体陽性の意味)A型」「ルミナルB型」「HER2型」「トリプルネガティブ型」の四つに分類(サブタイプ分類)し、治療方針の決定に役立てています。

 ルミナル型はA型、B型のどちらも基本的にはホルモン療法、HER2型は化学療法と分子標的療法を組み合わせた「HER2療法」、トリプルネガティブ型は化学療法が、それぞれ第一選択の治療法になります。

 ◇標準治療は別格、民間療法に惑われないで

 さらに近年、がんの治療は個々の患者に対し最適な治療方法を選択することが推奨されてきています。患者ごとにがんの性格を遺伝子レベルで分析する「プレシジョン・メディシン(精密医療)」という概念も導入され、乳がんの分野でも多数の遺伝子を解析する検査の有効性が実証され、臨床応用されています。

 遺伝子解析から得られた情報は再発リスクの少ないホルモン受容体陽性の乳がんに対して、不必要な抗がん剤治療を回避させるのに有用です。ただし、現時点では保険は適用されておらず、自費検査になります。

 最適な治療法、つまり標準的治療法は乳がんに罹患した何千、何万という多くの先人が治療試験(治験)に参加協力して得られたデータによって決まり、ガイドラインに掲載されています。週刊誌やテレビ、あるいは人づてに聞いた「楽だけどよく効いた」とされる民間療法とは別格です。

  標準的治療を選んだ患者がそうしなかった患者よりも、治療成績がよかったという調査があることも強調しておきたいと思います。(東京慈恵会医科大学附属第三病院外科・田部井 功)

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