「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~
今年の夏・旅行や帰省はどこまでできるか
~デルタ型流行の首都圏発着は?~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第23回】
新型コロナウイルスの第5波流行により、東京都では7月12日から8月22日まで緊急事態宣言が発出されています。この期間中の7月23日にはオリンピックが開幕するとともに、8月中旬はお盆期間になるため仕事が休みになる人も多いことでしょう。昨年は8月に第2波の流行が起きており、この期間の旅行や帰省を控えるようにと政府からの要請がありました。オンライン帰省という耳慣れない言葉もニュースで流れました。では、今年のお盆期間中の旅行や帰省は、どこまでできるのでしょうか。現時点(7月中旬)の流行状況に基づく対応を解説します。
昨年夏のお盆休み=2020年8月14日静岡県
◇お盆休み
お盆というのは、日本など東アジアで見られる夏の行事で、旧暦の7月13日から16日に祖先の霊が現世に戻って来るという仏教思想に基づいて行われます。この間に、迎え火や送り火、さらには盆踊りなどが催されます。東京など都市部では新暦の7月に行いますが、国内の多くの地域では8月13日から16日がお盆の期間になります。
この期間は祖先の霊とともに、家族が一緒に過ごすことを習慣にしている家庭も多く、たくさんの人々が実家に帰省します。会社もこの時期は休業になり、その間に旅行をする人も増えるのです。日本で人の移動が最も活発になる時期と言えるでしょう。
◇昨年と今年の違い
新型コロナでは人流の増加が流行を拡大させる要因になるため、昨年はこの時期の移動制限が要請されました。今年も国内では第5波の流行が首都圏を中心に始まっており、それを考えると昨年同様、移動しない方がいいのでしょうが、昨年と今年では異なる点がいくつかあります。
第1にワクチン接種が開始されており、高齢者については、かなりの割合が2回接種を終了しています。つまり、この世代の人々については、新型コロナに感染するリスクが昨年よりも低くなっています。
第2に第5波の流行は首都圏などが中心であり「緊急事態宣言」の発出も東京都や第4波の流行が残る沖縄県に限定されています。また、この宣言に準ずる「まん延防止等重点措置」の対象も神奈川県、千葉県、埼玉県の首都圏と大阪府のみになっています。
第3に流行が拡大しているウイルスがデルタ型変異株である点です。このウイルスは昨年夏に流行したウイルスより感染力が2倍近く強くなっています。また、今年の夏はオリンピックが開催されるため、海外から変異株がさらに流入してくる可能性もあります。
このように、今年の夏は昨年に比べて、新型コロナの流行が拡大しにくい点もあれば、逆に拡大しやすい要素も混在していることになります。
◇首都圏を中心とした旅行は控えるべき
こうした要素を総合的に考えると、お盆期間中の首都圏から、あるいは首都圏への旅行や帰省はできるだけ控えた方がいいでしょう。つまり「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」の対象となる自治体を出発したり、到着したりする旅行や帰省は控えるということです。
流行が下火になっている地域を出発地や到着地とする旅行は可能ですが、今後の流行状況を頻繁にチェックし、いずれかの地域で流行が拡大してきたら、旅行のキャンセルも検討してください。
また、旅行中はマスク着用など予防対策を徹底するとともに、大人数での会食を控えるようにしましょう。移動中の交通機関や観光地などで密の状態になるのを避けることも、もちろん大切です。さらに、旅行前に発熱などの体調不良がある場合は、旅行をキャンセルしてください。
自衛隊大阪大規模接種センターでワクチンの接種を受ける人たち=2021年6月9日
◇高齢者に会う場合
お盆期間までに、高齢者はほとんどがワクチンの2回接種を終了していますが、一般の人への接種はまだ一部に限られています。
ワクチン接種を2回受けた人の場合は、発症を予防する効果や重症化を予防する効果が確認されており、デルタ型の変異株についても、日本で使用されているワクチンは、ほぼ有効とされています。その一方で、ワクチンにより感染を予防する効果はまだ明らかになっていません。つまり、ワクチン接種を完了している人は感染しても発症しませんが、周囲の人に感染させないかどうかは不明なのです。
もし、あなたが帰省してご高齢者に会う場合、その人がワクチン接種を完了していれば、新型コロナを発症するリスクは低くなります。しかし、油断は禁物です。あなたがワクチン接種を受けていても、できるだけマスクを着用して会話をするようにしましょう。食事をしてもいいですが、できるだけ短時間で終わらせることが大切です。あなたがワクチン接種を受けていない場合は、マスク着用による会話だけにして、食事は避けた方が無難です。
◇ワクチン記録や検査記録の持参
ワクチン接種を終了している人が旅行をするときは、接種を終了した記録を持参することをお勧めします。今後、旅行中のさまざまな場面で、接種を受けているか否かが問われる可能性があります。これには接種会場で渡される接種記録を用いてもいいですが、今後、自治体から正式な接種証明書が希望者に配布される予定です。
ワクチン接種を受けていない人は、できれば旅行直前に、新型コロナの核酸検査(PCR検査など)や抗原検査を受けておくことをお勧めします。保険適用外なので少々高くなりますが、最近は多くの施設で新型コロナの検査を実施してくれます。そして、検査結果が陰性であることを確認するとともに、旅行中はこの検査記録を携帯するようにしましょう。この記録はワクチン接種記録と同等に扱われるはずです。
新型コロナの流行が始まって2度目の夏。長期の流行により、多くの国民がストレスを抱えています。そんな中で流行が抑えられている地域であれば、旅行や帰省をすることができます。流行の発生以来、会うことができなかった家族や友人と、短時間でもリアルな会話をすることはストレス解消への特効薬になります。そして、こうした行動をより安全に行うためには、事前にワクチン接種や検査を受けておくことが大切なのです。(了)
濱田篤郎 特任教授
濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏
東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
(2021/07/15 05:00)
【関連記事】