エイズ脳症〔えいずのうしょう〕 家庭の医学

 エイズはHIV-1型ウイルスによる感染がもとで、リンパ球が障害され、からだの免疫機能がはたらかなくなる病気です。エイズウイルスに感染すると、初期にはかぜのような症状がみられます。ついで数年から10年にわたる症状のない時期を経て、免疫機能がおとろえるにつれ、いろいろな感染症や悪性リンパ腫が生じ、エイズになっていきます。
 エイズ脳症は特にエイズウイルスが直接脳に影響を及ぼすものです。これはHIV-1脳症とか、エイズ関連認知/運動コンプレックスとも呼ばれます。
 病気の進行に伴い、思考のおそさ、話しことばが少なくなる、自発的な動作がなくなる、集中力の低下、もの忘れなどの知的な障害と、歩行が不安定になる、下肢の脱力、ふらつき歩行、ふるえなどの運動障害、そして無気力、興奮しやすい、人格の変化などの行動障害があらわれ、進行していきます。
 エイズではこの脳症のほか、脳の悪性リンパ腫による認知症や意識障害、片まひを起こします。初期に急性脱髄性多発神経炎(ギラン・バレー症候群)をみることもあり、よりゆっくりと発病する慢性炎症性脱髄性多発神経炎をみることもあります。
 この慢性神経炎は、手足の先から痛みや熱い感覚などの異常感覚が始まり、上行するものです。これは末期にみられます。脳の感染症にはトキソプラズマ、クリプトコッカス、サイトメガロウイルスなどの膿瘍(のうよう)や炎症、それにJCウイルスの感染による進行性多巣性白質脳症などがあります。これらにより性格変化、意識障害、けいれん、片まひなどが比較的すみやかに進行します。
 脳の悪性腫瘍の大部分は悪性リンパ腫です。トキソプラズマ原虫による脳の膿瘍とは鑑別がむずかしく、それぞれ対応する治療をおこないます。
 エイズウイルスに対する治療は、最近たいへん進んできました。

(執筆・監修:一口坂クリニック 作田 学)