後天性免疫不全症候群(AIDS)〔こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん(えいず)〕

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)の感染により生ずる病気です。HIVに感染した状態をHIV感染症と呼び、このなかで病態が進み免疫力がいちじるしく低下してしまった状態を後天性免疫不全症候群(AIDS:acquired immunodeficiency syndrome)と呼びます。HIVの感染は性的接触、母子感染、血液や体液の傷口からの侵入などで起こりますが、日常生活での接触で感染することはありません。
 WHO(世界保健機関)の推定によると2003年末で世界のHIV感染生存者数が4000万人で、2003年1年間で500万人が新たにHIVに感染し、300万人がHIV/AIDSで死亡したと発表されていましたが、国連合同エイズ計画(UNAIDS:Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)の2013年の推計では、世界の新規HIV感染者数は210万人を数えるものの徐々に減りはじめており、HIV新規感染が2001年当時より38%減少、死亡者数は年間150万人ですが、2005年より35%減っているとされています。これはHIV感染症に対する啓発活動や、治療薬の進歩によるものと考えられます。ただ中東、北アフリカ、東欧や中央アジアでは現在も感染者数は増加し続けており、異なるサブタイプによる組み換えウイルスの出現も報告されています。多くの先進国では啓発活動の結果、新規の感染者の数は頭打ち、ないし減少傾向がみられるようになってきました。しかし、日本は残念なことに先進国でありながら、いまだに新規感染者が漸増ないし横ばいの状態で、毎年1500人前後の新規感染者およびAIDS患者が発生しており、2014年には累計で2万4000人を突破しています。啓発活動が足りず、多くの人がSTD(sexually transmitted diseases:性感染症)の存在を忘れがちだからです。
 日本ではこれまでに血液製剤以外の経路で感染した人の数は、累積で6000人程度になっており、新規感染者の報告状況では、日本人の男性の増加が目立っています。この多くは国内での感染であり、日本人どうしでの感染ですので、日本においても当然感染予防の配慮が必要です。

[症状]
 感染の初期にはインフルエンザのような症状がありますが、自然におさまり、その後エイズ発症まで長い無症候期があります。この無症候期は、なにも治療しなかった場合、約10年ですが、正しい抗HIV療法を受けると、この期間をかなり長くすることができます。治療は早いほうが有効性が高いといわれています。
 HIVはCD4陽性リンパ球に感染し、この細胞をこわしていきます。このため、放置しておくとからだの免疫力がおとろえ、いろいろな感染症にかかりやすくなったり、また、もともと自分がもっていた病原体が活動を始め、感染症を発症するようになったりします。このようにして出てくる感染症でいちばん多いのは、カビの仲間であるニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)によってひき起こされるニューモシスチス肺炎で、ついでカンジダ症、、結核、非定型抗酸菌症の順となっています。悪性腫瘍もできやすくなります。

[診断]
 HIV感染症の診断は通常、HIVに対する抗体の有無で判定します。スクリーニングテストと確認試験の両方で陽性であれば、HIV感染症です。抗体による確認試験の代わりに、HIVの遺伝子を増幅して確認する場合もあります。エイズの診断には23項目の指標疾患(ニューモシスチス肺炎など)があり、このうち1項目以上に該当した場合、エイズとします。

[治療]
 かつては、HIV感染症やエイズに対する治療法にはあまりよいものがありませんでしたが、核酸系逆転写酵素阻害薬に加え、非核酸系逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラー阻害薬、CCR5阻害薬が開発され、それらを併用することで、いままでにない良好な成績が得られることがあきらかになってきました。
 3剤以上の抗HIV薬(antiretroviral drug:ARV)を組み合わせて服用する多剤併用療法(Combination Antiretroviral Therapy:cART)が、今日のHIV感染症の標準治療法となっており、これにより、感染症などの合併症を起こすことも非常に少なくなり、死亡率も激減しました。この治療方法によれば血中HIV-RNAは100分の1以下に低下し、80%以上の患者でHIV-RNAが測定感度以下となり、また、CD4陽性リンパ球数は1年後には平均200個/μL上昇します。
 多剤併用療法ではウイルスの複製が強力に抑えられるため、薬剤耐性ウイルスの出現がかなり遅れ、長期にわたりHIVを抑えられることがあきらかとなりました。副作用が多いこと、治療費が高いこと、服薬時間が複雑であること、併用薬に気をつけなければならないことなど、問題点も多く、改善の余地は大きいのですが、治療戦略に見通しができたことは大きな進歩です。
 HIV感染症の治療では、服薬状況を良好に保つことが必要で、服薬が不十分ですとたちまち耐性ウイルスができてしまいます。最近では1日1回の服用ですむ合剤が開発され、服薬も容易となって、治療の成功率は飛躍的に向上しています。また、このような治療をおこなうことにより、出産時の母子感染も大幅に抑えられるようになりました。

【参照】
 子どもの病気:HIV感染症
 脳・脊髄・末梢神経・筋の病気:エイズ脳症
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