単神経炎〔たんしんけいえん〕 家庭の医学

 単神経炎には動眼神経まひ、顔面神経まひ(ベルまひ)、手根管(しゅこんかん)症候群などがあります。

■動眼神経まひ
 動眼神経まひは糖尿病動脈硬化症などを有する症例に起こります。2~3日の経過で眼瞼下垂(がんけんかすい:まぶたが垂れ下がる)、瞳孔(どうこう)が開き、物が二重に見える症状が起こります。これは動眼神経に起こる一種の脳梗塞と考えられています。
 症状は重篤にみえますが、たいていの場合、完全に回復します。治療はプロスタグランジンの点滴が有効です。
【参照】目の病気:動眼神経まひ

■顔面神経まひ(ベルまひ)
 顔面神経まひは、あきらかな原因なしに起こるベルまひ(イギリスのチャールス・ベルが報告したことによる)と、糖尿病や動脈硬化症に伴うものがあります。数日の経過で片側の顔面筋が完全にまひをします。額(ひたい)にしわが寄らなくなり、目を閉じられなくなり、口のはしから水がこぼれます。まひの側の舌で味覚が低下します。
 音が大きく聞こえたり、涙が出なくなる、あるいは出すぎることもあります。
 治療は副腎皮質ステロイド薬内服、プロスタグランジン製剤の点滴、角膜の保護、星状神経節ブロックなどが有効です。単純ヘルペス治療薬が有効なこともあります。
 早期からリハビリテーションをおこないます。両手で顔面の下から上へもみ上げるようにします。通常は1~3カ月で治癒します。

■手根管症候群
 手根管症候群は、産後の女性や中年の女性に多発する疾患です。症状は夜間人差し指、中指、薬指の3本の手のひら側にジンジンするしびれではじまります。

 進行すると日中にもしびれを感じるようになり、やがて母指球(親指の根もとで筋肉がふくらんでいるところ)が萎縮してきます。
 さらに進行すると、手のひらの筋肉がなくなり、猿手といって、物をつかむことができなくなります。
 診断は、まひのある手のひら側の腕関節でここを通る正中神経をたたくと、指先にビリッとしびれが走ることでわかります。筋電図で伝導速度をはかり、確定診断をします。手根管症候群のかげに隠れた病気があることもあります。たとえば、糖尿病、甲状腺機能低下症、慢性関節リウマチ、先端巨大症(脳下垂体腫瘍)などが知られています。
 治療は手を使わないようにすることで、軽いうちは入浴時に手くびをマッサージします。かばんは肩にかけたり、ひじで持ったりするように心掛けます。進行した場合は手術で手根管を開くことで完治します。

■橈骨神経まひ
 橈骨(とうこつ)神経まひでは手くびを伸ばすことができず、まるで幽霊のように手が下がってしまいます。

 深酒をしたり、疲れて寝入り、二の腕を圧迫してここを走る橈骨神経がまひするのが原因です。「ハネムーンまひ」とか「土曜の夜のまひ」という別名もあります。いずれも腕枕が原因となります。
 治療は通電療法などのマッサージ、リハビリが主体です。

■尺骨神経まひ
 尺骨(しゃっこつ)神経まひは、ひじの部位で尺骨神経が圧迫されて起こります。

 このまひを生じると、小指の根もとにある筋肉のふくらみ(小指球)が萎縮し、指を伸ばしたり、外に開くことができなくなります。その結果、鷲手(わしで)といって、あたかもビールジョッキを持っているような手の形になります。
 治療は外科的に尺骨神経の圧迫を取り除く必要があります。

(執筆・監修:一口坂クリニック 作田 学)