食事療法の効果と原則 家庭の医学

 食事療法というと厳格な食事制限と考えがちですが、健康に生きていくうえで必要十分なエネルギーをとり、栄養を補給することに尽きます。糖尿病はインスリンの作用の不足により起こるので、体内のインスリンを有効に活用し、肥満を解消し、インスリンの効果を高めるためにも食事療法をよく理解していきましょう。

■食事療法の進めかた
 性、年齢、肥満度、身体活動量、病態、患者さんのアドヒアランスなどを考慮してエネルギー摂取量を決めます。
 ①治療開始時、目安とするエネルギー摂取量は以下にように算出します。
  エネルギー摂取量=目標体重(kg)×エネルギー係数

(1)目標体重(kg)は以下の式から算出
  65歳未満:身長(m)×身長(m)×22
  65~74歳:身長(m)×身長(m)×22~25
  75歳以上:身長(m)×身長(m)×22~25(*)
*ただし、現体重にもとづき、フレイル、ADL低下、併発症、体組成、身長の短縮、摂食状況や代謝状態の評価を踏まえて適宜判断する
(2)肥満で減量をはかる場合には、身体活動レベルより小さいエネルギー係数を設定。高齢者のフレイル予防には身体活動レベルより大きい係数を設定。
(3)肥満者の場合は、まず3%の体重減少をめざす。

 ②次に大切なことは栄養素の構成です。はじめに、指示エネルギー量の40-60%を  炭水化物になるように、それもできるだけ食物繊維が豊富な食物を選択します。たんぱく質は20%までとして残りを脂質にあてます。ただし、いずれも、病態、治療や嗜好を考慮することは基本です。そのほか、ビタミン、ミネラルや食物繊維を十分に摂取することも積極的におこないましょう。
 ③食事は、量的にも時間的にも規則的に摂取するようにします。この点は特に薬物治療をおこなっている場合には大切です。
 ④1日に3食はとってください。
 ⑤食事療法の実践には『糖尿病食事療法のための食品交換表(第7版)』(日本糖尿病学会編、文光堂)をじょうずに活用してください。食品交換表では、日常の食品が表1から表6まで分類され、それぞれの表の中で1単位=80kcalに相当する分量(g)が示されています。
 表1から表6の区分は次のようになっています。
 「表1」=主食としてとられる食品。主として炭水化物を供給するでんぷんの多い食品群。穀物、いも、豆類(大豆を除く)、炭水化物の多い野菜(かぼちゃ、れんこん、とうもろこしなど)、種実類(くり、ぎんなんなど)
 「表2」=「表1」と同様、炭水化物を主とした食品。果実類
 「表3」=たんぱく質を主として供給する食品群。魚介類、肉、卵、チーズ、大豆とその製品
 「表4」=牛乳と乳製品(チーズを除く)
 「表5」=油脂類と多脂性食品
 「表6」=おもにビタミン、ミネラル、食物繊維を供給する食品群。緑黄色野菜、海藻、きのこ、こんにゃくなど。そのほか、「調味料」が加わります
 食品交換表のおもな食品と栄養素を表にまとめて示します。食品交換表を用いて栄養食事指導をおこなう場合、まず1日の指示エネルギーを算定し、次にそのエネルギーを各表からどれだけ(何単位ずつ)摂取するかを決めるのです。それによって栄養素のバランスも確保されます。

 図に1600kcalの指示エネルギーの場合の各表から摂取するバランスの一例を示します。このように摂取すれば、各栄養素のバランスが保たれるようになっています。


■薬物療法中の食事療法
 糖尿病で薬物療法をおこなっている場合には、薬物の量や投与法を調節する際、食事療法の見直しが必要なことが多く、単純に経口糖尿病薬の種類や量を変えてもよい効果が得られないことが少なくありません。
 さらに食事療法は、糖尿病の合併症(特に腎症)の有無や程度、高血圧症(高血圧)や高脂血症(脂質異常症)など併発しやすい疾患の有無によっても変える必要があります。
 肥満が目立つ場合には、まず3%の体重減少をめざします。高血圧症があれば減塩食、高脂血症があればコレステロール制限(低コレステロール食)、腎症が進行すればたんぱく制限食、低たんぱく食がすすめられます。

【参照】食事療法のいろいろ:糖尿病、肥満

(執筆・監修:東京女子医科大学附属足立医療センター 病院長/東京女子医科大学 特任教授 内潟 安子)
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