呼吸器の病気 家庭の医学

コラム

ECMO

 超重症呼吸不全(人工呼吸器を用いても十分な酸素を取り込めない)に対する治療の「最後の切り札」「生命維持の最終手段」とされるのが体外式膜型人工肺『エクモ』(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)です。からだの太い血管に管(カニューレ)を挿入し、血液をからだの外に取り出し、その取り出した血液に、特殊な装置を用いて酸素を含ませて二酸化炭素を取り除き、再度からだに戻す治療です。つまり、本来であれば口から酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出す『呼吸』を、ダメージを負った肺を用いずに血液でおこなう『人工肺』ともいえます。

 新型コロナウイルス感染症の重症例ではECMOを装着し治療をすることがあります。日本では、ECMOを装着し治療を終えた患者の約70%が回復するという、よろこばしい成績も報告されています。いっぽうで、固まりやすい血液をからだの外に取り出して、処置をして、またからだに戻すという人工的な操作では、さまざまな合併症を生じるリスクも高く、永遠に実施することは不可能で、一時的(数週間)な処置です。ECMOを装着している間に、ダメージを受けた肺が回復を果たすことが生命維持のためには必要です。また、ECMOを使用するにはかなりの専門知識、多くの医療者のチーム(1人の患者さんに10人以上の医療スタッフ)が必要となるため、実施できる施設は限られています。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 塩田 智美)
コラム

肺移植

 肺移植は、重い肺の病気をもつ患者さんにおこなわれる治療で、自分の肺を取り出し、提供者(ドナー)の方から提供された新しい肺を移植します。①重い肺の病気で、現在の医療では肺移植以外に有効な治療法がない、②生命の危険が迫っている、③移植をすれば元気になることが予想される、④精神的・社会的に安定していて家族の協力体制がある、の4つが満たされる方が対象となります。脳死肺移植(脳死の方がドナー)、生体肺移植(健康な家族がドナー)の2種類があり、国内では、現在(2023年9月)、11施設の脳死肺移植認定施設があります。脳死肺移植では適応審査を受ける時点の年齢が、両肺移植を必要とする場合は55歳未満、片肺移植を必要とする場合は60歳未満でなくてはなりません。肺移植後は、ドナー肺を拒絶反応から守るため免疫抑制薬、感染症から身を守るために抗菌薬など、最低でも5~6種類の薬を生涯にわたって内服する必要があり、また、食事や日常生活でも気配りしなくてはならない点があります。肺移植手術は保険診療の対象であり、難病などの公費負担対象疾患や身体障害者に認定されている場合はそれらの制度を利用できます。
 わが国における肺移植に関する詳細でわかりやすい冊子、「肺移植のためのガイドブック」が「日本肺および心肺移植研究会」のホームページからダウンロードできますので、ご参照ください。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 客員教授〔呼吸器内科学〕 瀬山 邦明)
コラム

呼吸器の病気と難病制度

 日本の医療制度には、難病の患者さんを支援するための「難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)」にもとづく制度があります。この制度は、国が定めた「指定難病」に該当する患者さんに対し、医療費の助成などを通じて経済的負担を軽減し、安定した療養生活を送れるように支援することを目的としています。
 指定難病とは、以下の6つの条件を満たす疾患のなかから、国が定めたものです。
1. 発病の機構があきらかでないこと
2. 治療方法が確立していないこと
3. 希少な疾患であること
4. 長期の療養を必要とすること
5. 患者数が本邦において人口の約0.1%程度に達しないこと
6. 客観的な診断基準が成立していること
 現在(2025年4月現在)、合計348疾患が指定されており、呼吸器(肺や気道)に関連する指定難病には、以下のような疾患があります。
サルコイドーシス
・特発性間質性肺炎(特発性肺線維症など)
肺動脈性肺高血圧症
慢性血栓塞栓性肺高血圧症
リンパ脈管筋腫症(LAM)
・閉塞性細気管支炎
・肺胞蛋白症(自己免疫性又は先天性)
・肺胞低換気症候群
・α1-アンチトリプシン欠乏症
・先天性気管狭窄症/先天性声門下狭窄症
・線毛機能不全症候群(2024年に新たに追加された疾患)
 これらの疾患は、同じ呼吸器の病気でも患者数は数十人から数万人まで幅広く存在します。

 医療費助成を受けることで、患者さんの自己負担が大きく軽減されます。
・自己負担割合の軽減:通常3割負担(70歳未満)の医療費自己負担が2割に引き下げられます。
・月額自己負担上限額の設定:世帯の所得に応じて、1カ月に支払う医療費の自己負担額に上限が設けられます。同じ月に複数の医療機関や薬局を利用した場合も合算され、上限額を超えた分は支払わなくてよい仕組みです。一般的な所得の世帯では月1万円~2万円前後、低所得世帯では2500円といった低い上限額が適用される場合があります。
・重症者等への特例:特に、人工呼吸器などの生命維持装置を装着している重症患者さんの自己負担上限額は、所得にかかわらず月1000円と大幅に軽減されます。
・軽症高額治療費の該当:症状が比較的軽く「重症度」の基準を満たさない場合でも、過去1年間のうち3カ月以上、対象となる医療費総額が月33330円を超える場合は、例外的に助成対象となります。

 助成を受けるには、以下の要件を満たし、申請手続きをおこなう必要があります。
■要件
・厚生労働省が指定した難病の確定診断を受けていること
・診断された難病の重症度が一定以上であること(疾患ごとの基準による)
・または、症状は軽症でも「軽症高額該当」の条件を満たすこと
■申請方法
1. まず、都道府県などが認定した「難病指定医」に、病気の診断名や重症度などが記載された「臨床調査個人票」(診断書)を作成してもらいます。
2. この診断書に加え、申請書、所得証明書類、健康保険証の写しなどをそろえ、お住まいの都道府県または指定都市の担当窓口(おもに保健所)に提出します。
3. 提出された書類は都道府県・指定都市で審査され、認定されれば「特定医療費(指定難病)受給者証」が交付されます。
4. 受給者証を、都道府県等から指定を受けた「難病指定医療機関」の窓口で提示することで、医療費助成が受けられます。
5. 支給認定の有効期間は原則1年で、助成を継続するには毎年更新申請が必要です。申請から認定・受給者証交付までは通常2~3カ月程度かかります。

 申請手続きは少し複雑に感じられるかもしれませんが、各自治体の窓口や難病相談支援センターに相談すれば、くわしい案内を受けられます。この制度を適切に活用することで、経済的な不安を軽減し、安心して治療に専念できるようになります。詳細は、難病情報センターをご参照ください。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 准教授〔呼吸器内科学〕 光石 陽一郎)