β-ラクタム系抗菌薬アレルギーは最も一般的な薬物アレルギーだが、カルテに同アレルギーの記載がある患者では、薬剤耐性菌感染症や長期入院の増加といった有害事象が報告されている。そのため、抗菌薬適正使用の観点からもβ-ラクタムアレルギーに関し正確なカルテ記載や重症度評価、経時的な再評価が提唱されている。だが一方で、アレルギー欄への記載が長期転帰に与える影響についての理解は限定的である。米・University of Pittsburgh School of PharmacyのMatthew P. Gray氏らは今回、電子カルテデータを最長12年追跡。得られた結果をJAMA Netw Open(2024; 7: e2412313)に報告した。(関連記事「薬疹を起こしやすい意外な薬剤、対処法は?」)
全死亡、急性腎障害、耐性菌検出との関連を検討
対象は、University of Pittsburghの関連病院16施設で2007~08年に敗血症、肺炎、尿路感染症と診断された18歳以上の患者のうち、電子カルテのアレルギー欄にβ-ラクタム系抗菌薬の記載がある者。死亡または2018年12月31日まで追跡した。
主要評価項目は死亡登録に基づく全死亡、副次評価項目は急性腎障害(AKI)の発生と重症度、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、Clostridioides difficileへの感染とした。
患者のパネルデータを一般化推定方程式に当てはめ、β-ラクタムアレルギーの記載あり群と記載なし群で、各評価項目の発生率を評価した。各副次評価項目の発生回数(日数)をオフセット項とした。
MRSAおよびVREの増加と関連、死亡については不明
計2万92例(平均年齢62.9±19.7歳、女性60.9%)のうち、β-ラクタムアレルギーの記載あり群は4,211例(21.0%)、記載なし群は1万5,881例(79.0%)だった。
同アレルギーの記載と全死亡に有意な関連は認められなかった〔オッズ比(OR)1.02、95%CI 0.96~1.09、P=0.50〕。同様に、ステージ2/3のAKI(同1.02、0.96~1.10、P=0.49)、ステージ3のAKI(同1.06、0.98~1.14、P=0.15)との有意な関連も示されなかった。
同アレルギーの記載は、評価対象とした耐性菌3種の感染症(OR 1.33、95%CI 1.30~1.36、P<0.001)の増加と有意に関連していた。個別に見ると、MRSA感染症(同1.44、1.36~1.53、P<0.001)、VRE感染症(同1.18、1.05~1.32、P=0.004)と有意に関連した一方、C. difficile感染症との関連はなかった(同1.04、0.94~1.16、P=0.43)。
この問題について、5年超の長期追跡した研究は1件しかなく、全死亡、MRSAおよびC. difficile感染との関連が示されている。今回の研究でも、アレルギー記録の経時的な変化を調整した場合、全死亡との関連が示されており、Gray氏らは「長期追跡における全死亡との関連は、今のところ不明である」と述べている。
耐性菌増加を防ぐためにも適正な記載が望まれる
過去には、カルテにおけるβ-ラクタムアレルギー記載の90%超が不正確との報告もある(J Allergy Clin Immunol Pract 2023; 11: 405-413、Ann Allergy Asthma Immunol 2023; 130: 554-564、Allergy 2017; 72: 1288-1296)。Gray氏らは、今回の結果を「β-ラクタムアレルギーの記載は、長期的には全死亡の有意な上昇と関連しなかったが、薬剤耐性菌感染症の増加と関連していた」とし、「診療システムにおいてアレルギーを正確に記録し、βラクタム系抗菌薬を不必要に控えることなく第一選択の狭域抗菌薬を最大限に使用すべきである」と警鐘を鳴らしている。
(小路浩史)