米・University of MichiganのAlexander Hart氏らは、リアルワールドのデータベースを用いて前立腺肥大症(BPH)患者の使用薬を調べた結果、「解糖系亢進作用を有するα1遮断薬(テラゾシン、ドキサゾシン、alfuzosin)の使用とレビー小体型認知症(DLB)リスク低下との関連が認められた」とNeurology(2024; 103: e209570)に報告した。
ATP産生増加が脳のエネルギー利用を高める
テラゾシン、ドキサゾシン、alfuzosinは、解糖系におけるATP産生酵素と結合し、活性化するといわれている。解糖系亢進作用を有するこれらのα1遮断薬は、脳のエネルギー供給を増やす可能性があり、異常蛋白質αシヌクレインの蓄積を減らすことで、神経変性疾患の予防または進行抑制に寄与するのではないかとの仮説がある。
パーキンソン病(PD)に関しては、α1遮断薬の予防効果との関連が既に報告されているが(JAMA Neurol 2021; 78: 407-413、Mov Disord 2022; 37: 2210-2216、Ann Med Surg 2024; 86: 3409-3415)、今回Hart氏らは、Merative MarketScanのデータベースを用い、実薬対照新規使用者デザインによるコホート研究を実施した。
DLB既往歴がなく、新規にテラゾシン、ドキサゾシン、alfuzosinのいずれかを開始したBPH患者を同定し、解糖系亢進作用を有さないα1遮断薬タムスロシンと5α還元酵素阻害薬(フィナステリド、デュタステリド)を対照薬とした。患者背景(年齢、治療開始年、病歴)や追跡期間については傾向スコアによるマッチングを行った。
対照薬と比べDLB発症率は37~40%低下
Cox比例ハザード回帰モデルによる解析の結果、テラゾシン/ドキサゾシン/alfuzosin群では、タムスロシン群〔24万2,716例、追跡期間72万8,256人・年、ハザード比(HR)0.60、95%CI 0.50~0.71〕または5α還元酵素阻害薬群(13万872例、同39万9,316人・年、0.73、0.57~0.93)と比べ、DLB発症リスクが低かった。タムスロシン群と5α還元酵素阻害薬群の比較では、DLB発症リスクに差はなかった。また、複数の感度分析によっても結果の頑健さ(robustness)は維持された。
Hart氏らは「テラゾシン/ドキサゾシン/alfuzosin群の患者が後にDLBと診断されるリスクはタムスロシン群に比べ40%、5α還元酵素阻害薬群に比べ37%低かった」と結論。「観察研究で得られた関連を示唆する知見であり、因果関係は不明だ。また、対象は男性のみであったため、女性でも同じ知見が得られるかは分からない」としながらも「テラゾシン、ドキサゾシン、alfuzosinは既に米食品医薬品局(FDA)に承認されている安価な薬剤であり、数十年にわたり安全に使用されてきた。これらの薬剤により、DLBの予防は無理でも、少なくとも進行を遅らせることができれば、DLB患者の認知機能とQOLの維持にとって福音となるだろう」と述べている。
(木本 治)