障害などを理由に不妊手術を強制した旧優生保護法を巡る訴訟で、3日の最高裁大法廷判決は実質的な原告側全面勝訴となった。弟も手術を受けたと証言するのは、宮城県岩沼市で民間初のてんかん専門病院「ベーテル」を営む曽我孝志さん(75)。原告にはならなかったが、「行政が記録を基に手術を受けたことを被害者に教えてあげるべきだ」と訴える。
 おぼろげな記憶にあるのは、10代の頃に母親から聞いた「(弟を)手術してきた」という一言。弟は幼くして「レノックス・ガストー症候群」と呼ばれる数種のてんかん発作が起こる難病を発症していた。
 ただ、何のための手術かを母親が話してくれた記憶は全くない。「説明がないこと自体おかしいが、触れてはいけない感じがあったのではないか」と振り返る。
 母親の一言が不妊手術と結びついたのは、2017年2月の新聞記事だった。手術への謝罪と賠償を求めて活動していた同県の女性の申し立てを受け、日弁連が国に意見書を提出したと書かれていた。女性の活動は、18年1月の全国初提訴につながった。
 一連の報道を受け曽我さんは同年、弟の手術記録について県に情報開示請求したが回答は「不存在」。代わりに開示されたのは大部分が黒塗りの「相談記録」で、「優生保護手術を適用」と殴り書きしてあった。泌尿器科の医師に弟を診察してもらい、生殖器に手術の痕跡があるという診断も受けた。
 提訴に向けて弁護士に相談したが、自身が何度も出廷しなければならないことなどを考えると、踏み切れなかった。「1人で病院に寝泊まりするほど多忙で、裁判に専念する力がなかった」
 てんかんを含め障害などを理由に不妊手術を受けた人は約2万5000人とされるが、19年に成立した一時金支給法の申請件数は6月2日時点で1331件にとどまる。曽我さんは「問題になるまでの期間が長すぎた。被害者に情報提供してくれる人がいないのではないか」と懸念。「行政が持っている資料を基に手術を受けたことを伝えるべきだ」と指摘した。
 一方で、今後の救済に向けた国や行政の対応には期待を込める。「訴えた原告らが頑張り通さなければ、この勝利にはつながらなかった。ともかく心からお祝いしたい」と喜んだ。 (C)時事通信社