血液製剤は、輸血用血液製剤と血漿分画製剤に大別され、献血血液の54.7%が血漿分画製剤として使われている。血漿分画製剤の一種である免疫グロブリン製剤の医療需要は年々増加しているものの、少子化の影響などにより30歳代以下の献血者数は減少しており、十分な供給量の確保が危ぶまれている。こうした状況を踏まえ、武田薬品工業、日本血液製剤機構、KMバイオロジクスで構成する血漿分画製剤認知向上委員会は7月17日、メディアラウンドテーブルを開催。千葉大学大学院脳神経内科学准教授の三澤園子氏は、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)治療において血漿分画製剤が果たす役割について解説するとともに、血漿分画製剤の認知向上と献血の普及啓発を訴えた(関連記事「10歳代の献血者数、2年連続で増加傾向」)。

30歳代以下の献血者数は15年で100万人以上の減少

 免疫グロブリン製剤は、CIDPをはじめとした神経疾患、川崎病、重症感染症などの治療に幅広く用いられている。近年、診断技術の向上による患者数の増加や治療アクセスの拡大を背景に需要が増加しており、輸入血漿を含む供給量は2013年度の174万本から2022年度には257万本へと拡大している

 こうした中、血液製剤の原料となる血液の安定供給が課題となっている。2007~22年の献血者数は約500万人とほぼ横ばいで推移しているものの、30歳代以下では減少が続いている(図1)。

図1. 年齢層別に見た献血者数の推移

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 この理由として、①少子化により30歳代以下の人口が減少している、②新型コロナウイルス感染症の流行拡大を契機として、高校・大学などの学生を対象とした学校献血が減少した―ことが挙げられるという。

 現在、免疫グロブリン製剤の国内自給率は82.8%と低下傾向にあるが、1975年の世界保健機関(WHO)総会決議では必要量を自国で確保することが採択されており、日本においても国内自給の達成が求められている。

CIDPの初回治療は72%が免疫グロブリン製剤

 免疫グロブリン製剤が有効な疾患としては、CIDPが挙げられる。CIDPは脱髄により末梢神経が障害される重度の自己免疫疾患で、四肢の筋力低下・感覚障害を来すなどして日常生活が困難になる例が少なくない。三澤氏らが行ったCIDPに関する全国調査では、初回治療の第一選択は免疫グロブリン療法が72%、ステロイド療法が15%、その他(血漿交換療法など)が13%だったと示された(Neurology 2024; 102: e209130

 CIDPは時間の経過とともに症状の悪化、再発と消失を繰り返すことがあるため、初回治療後も疾患活動性をコントロールすることが重要となる。こうした中、今年(2024年)5月に『慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン』が11年ぶりに改訂された。これまで、CIDPの導入治療後は再発の度に免疫グロブリン製剤などを投与するといった考え方が主流だったが、寛解の維持は難しく患者の精神的負担は大きかったという。一方、改訂されたガイドラインでは、再発がない状態でも免疫グロブリン投与(静注または皮下注)を頻回に行うといった維持療法の指針が示された(図2)。

図2. CIDP治療に対する考え方

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 (図1、2ともメディアラウンドテーブル資料)

 同氏は「こうした治療法の転換により、寛解の維持が可能になってきているとともに患者さんは『明日も今日と変わらない日が来る』という安心感を得られるようになった」と述べた。

 また、免疫グロブリン製剤はギラン・バレー症候群の治療においても有効で、発症後1~2週時に治療を開始することで、重症化を防ぐことができる。血漿交換療法と比べて早期に効果が得やすいといった点も利点として挙げられるという。

血漿分画製剤の適正使用も重要

 以上を踏まえ、三澤氏は「CIDPをはじめ、血漿分画製剤の需要は高まっており、生命や機能の維持のため十分量の確保が求められている」と指摘。「『献血は元気と幸せのおすそ分け』をキャッチフレーズにその意義や重要性を啓発していきたい」と呼びかけた。その上で、医療関係者に対しては「症状に合わせて薬剤変更を行うなど、血漿分画製剤の適正使用をお願いしたい」と付言した。

(植松玲奈)