高齢期の栄養不良はフレイルやサルコペニアなど全般的な健康状態の悪化と関連する。食欲不振に影響を及ぼす要因の1つとして季節変化が考えられ、高齢者のエネルギー摂取量は夏に減少する傾向にあり、冷たい食事や飲み物の摂取との関連が指摘されている。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の藤平杏子氏らが高齢者の夏季における冷たい/温かい食事・飲み物の摂取頻度と栄養状態、食欲、エネルギー摂取量との関連を検討したところ、栄養状態および食欲は、温かい食事や飲み物の摂取頻度と関連することが明らかになったとJ Nutr Sci Vitaminol2024; 70: 288-292)に報告した。

65歳以上の健康な高齢者60人が対象

 対象は、就労意欲と就労可能な身体能力があり介護を必要としない65歳以上の高齢者60人で、食事制限を要する疾患を有する者、食欲に影響を及ぼす薬の服用者は除外した。調査は2021年8月に郵送質問票を用いて実施した。

 冷たい食事・飲み物、温かい食事・飲み物の摂取頻度について、4つの選択肢(「なし」、「最小限」、「中程度」、「頻繁」)から1つを主観的に選択してもらった。冷たい食事はそうめん、冷奴など、冷たい飲み物はお茶、清涼飲料水など。温かい食事は鍋物や麺類、温かい飲み物はお茶やココアなどを例示した。栄養状態はMini Nutritional Assessment(MNA)、食欲のスコアリングにはSimplified Nutritional Appetite Questionnaire(SNAQ)、エネルギー摂取量の評価には食事頻度質問票を用いて評価した。

 対象の平均年齢は72.8±4.8歳(範囲65〜84歳)、平均体重は59.0±10.2kg、平均BMIは22.4±2.8で、配偶者あり73.3%、独居21.7%だった。食事回数の中央値は3回/日(範囲2〜3回/日)、総活動量は42.3METs・分/週だった。

 MNAスコアの中央値は27(範囲19.5〜30)で、栄養状態良好(スコア24〜30)は96.9%、栄養不良リスクあり(スコア17〜23.5)は3.4%だった。SNAQスコアの中央値は15(範囲13〜19)で、食欲不振なし(スコア15以上)は81.4%、食欲不振(スコア15未満)は18.6%だった。エネルギー摂取量の中央値は1,980kcal(範囲1,080〜3,331kcal)だった。

温かい食べ物・飲み物の摂取頻度が高い人は栄養状態と食欲が良好

 冷たい/温かい食事や飲み物の摂取頻度とエネルギー摂取量、食欲、栄養状態との関連を検討した結果、夏季に温かい食事を「中程度」または「頻繁」に摂取したと回答した人は、摂取量が少ないと回答した人に比べBMIが有意に高かった(順にP=0.033、P=0.005)。夏季に温かい食事を「頻繁に」摂取すると回答した参加者は、「最低限」摂取すると回答した参加者に比べMNAスコアが有意に高かった(P=0.014)。温かい食事の摂取頻度が「高い」と回答した参加者は、「少ない」または「中程度」と回答した参加者に比べSNAQスコアが有意に高く(順にP<0.001、P=0.001)、温かい飲み物を「頻繁に」摂取すると回答した参加者は、「最小限」または「中程度」と回答した参加者よりもSNAQスコアが有意に高かった(順にP=0.021、P=0.008)。

 以上から、藤平氏らは「日本人高齢者において、夏場の食欲および栄養状態は、温かい食事・飲み物の摂取頻度と関連し、夏に温かい食事や飲み物をの摂取頻度が比較的高い高齢者は栄養状態が良好で食欲が旺盛と考えられた。食事を温めることは食欲増加に関連することや、冷たい飲み物を摂取するとエネルギー摂取量が減少、温かい飲み物を摂取すると食欲とその後の食事からのエネルギー摂取量が増加するとの報告があることなどを踏まえると、本研究の結果は、夏場に食欲が低下しがちな高齢者の食事管理において、食事の温度を考慮することの重要性を示している」と述べている。

編集部